結論から言うと、介護離職防止支援コース(介護休業)は「正しいフローで手続きを踏めば確実に取れる助成金」だ。しかし、スタートアップでよくあるのが、「男性育休のノリで動いたら全然違った」という失敗。育休系の申請経験が豊富なスタートアップのバックオフィスほど、介護系で同じ感覚で動いて不支給になる。

少子高齢化が加速する2026年、スタートアップの社員でも「親の介護が突然始まった」という事態は決して他人事ではない。中核人材が介護離職すれば、採用コストと業務の断絶だけでなく、IPO審査での労務コンプライアンス評価にも影響が出る。介護離職防止支援コースは、この問題に対して国が用意した制度だが、育休と似て非なる申請フローが不支給を多発させている。

令和8年度の制度概要

介護離職防止支援コースは、両立支援等助成金の一つで、中小企業事業主のみが対象だ。令和8年度(2026年度)の主な助成額は以下のとおり。

区分 助成額 上限
①介護休業コース 60万円/人 5人まで
②介護両立支援制度コース 40万円/人 5人まで
③業務代替支援 30万円/人 5人まで
④介護休暇制度有給化支援(令和8年4月8日新設) 50万円 1事業主1回限り

本記事では①介護休業コース(最大60万円)に絞り、スタートアップが陥りやすい3つの不支給パターンを解説する。④有給介護休暇制度有給化支援については別記事を参照してほしい。

なお、令和8年4月8日改正から、②介護両立支援制度コースの対象から「所定外労働の制限制度」「深夜業の制限制度」「法を上回る介護休暇制度(無給)」の3制度が除外された。令和7年度の申請経験をそのまま横展開すると対象外になる組み合わせがある点も押さえておきたい。

申請の基本フロー(介護休業コース)

介護休業コースの申請フローは育休系と一見似ているが、構造が根本的に違う。

  1. 介護発生の把握(対象労働者が家族介護の必要性を申し出る)
  2. 個別面談の実施(面談シートを使用し書面で記録。介護休業開始に実施が必須)
  3. 仕事と介護の両立支援プランの策定(面談結果を踏まえて事業主が作成)
  4. 介護休業の取得
  5. 職場復帰
  6. 職場復帰後6ヶ月間継続雇用
  7. 申請(介護休業終了日の翌日から2ヶ月以内)

この順序が絶対条件だ。ひとつでも前後したり、手続きを省いたりした時点で不支給になる。

パターン①:個別面談の記録が「記録」になっていない

スタートアップに多い3つの失敗型

スタートアップでよくあるのが、介護が必要な社員が相談を持ちかけてきたときに、社長やHRが「じゃあ休んでいいよ」とSlackで返信し、それをスクリーンショットで証拠として添付しようとするケース。審査では認められない。

個別面談で必要な記録は以下の4点セットだ。

  • 面談実施日
  • 面談者(事業主または担当者)の氏名
  • 対象労働者の氏名
  • 介護の状況・今後の支援方針(面談シート形式)

厚生労働省の指定様式「仕事と介護の両立支援プラン(面談シート兼用)」を使うか、これと同等の内容を含む独自書式で紙またはPDFで保存することが審査の基本要件だ。

もう一つの落とし穴が「プランを先に作ってから面談」という手順の逆転だ。スピードを優先するスタートアップは、テンプレートで両立支援プランを先行作成し、後から面談という形で運用する。しかし「面談結果を踏まえてプランを策定する」が正しい順序。面談が先、プランが後だ。

対策

介護発生当日のうちにSlack社労士チャンネルに通知 → 面談日程を1週間以内に設定 → 面談シートを事前にクラウドに準備 → 面談実施後にプラン作成——この一連のオペレーションを全クライアントに展開している。

パターン②:就業規則に規定のない措置を介護支援プランに盛り込む

典型的な失敗:テレワーク・フレックスを規定なしで記載

介護支援プランを作成する際、「テレワーク可能にします」「フレックスで対応します」という措置を盛り込みたいケースは多い。しかし、それらの措置が就業規則に明記されていなければ、助成金の対象措置として認められない。

特に問題になるのが、育児介護休業法2025年10月施行分への就業規則対応だ。「柔軟な働き方選択制度」への対応が済んでいないスタートアップはまだ多い。この未対応のまま「柔軟な働き方の選択肢を提供します」と介護支援プランに書いてしまう。

制度を先に整えてから介護支援プランを作る——これが鉄則だ。就業規則に規定のない措置をプランに盛り込んでも審査を通過しない。

就業規則チェックリスト(介護5点セット)

  1. 介護休業制度(取得要件・期間・申請手続き・合計93日)
  2. 介護短時間勤務制度(1日6時間以上の設定、利用可能期間・回数)
  3. テレワーク制度(対象者・費用負担・申請手続きの明記)
  4. フレックスタイム制度(対象者・コアタイム設定)
  5. 介護休暇制度(有給か無給かの明記——令和8年度④有給化支援は有給規定が必須)

この5点セットを一括整備すれば、①介護休業コースと④有給介護休暇制度有給化支援の両方の申請土台が整う。IPO審査の労務コンプライアンス対応とも同時に解決できる。

パターン③:申請期限の起算日を「介護休業終了日」と誤認

「終了日の翌日」から2ヶ月以内——1日のズレが致命的

育休の申請期限管理を経験しているバックオフィス担当者ほど引っかかるのが、申請期限の計算だ。正しい起算日は介護休業終了日の翌日。6月30日に介護休業が終了した場合、申請期限は8月31日だ。「6月30日から2ヶ月 = 8月30日」と誤認すると1日ズレて期限超過になる。

実務で見る典型的な失敗パターン:

  • 介護休業を分割取得した場合に「どの終了日を起算日にするか」で混乱する
  • 有期雇用労働者が申請者の場合、職場復帰後6ヶ月雇用継続の確認期間と申請期限のタイムラインが交錯する
  • バックオフィス兼務担当者が介護休業終了日をカレンダーに入れ忘れ、期限を見落とす

対策

介護休業の取得決定が判明した時点で、Slack社労士チャンネルに「介護休業開始日・終了予定日・申請期限(終了翌日+2ヶ月)」の3点を即時共有するオペレーションを標準化している。Slackに社労士を入れておくだけで対応速度が劇的に変わる——これは両立支援等助成金の申請支援を年間通じて行う中で何度も実証してきた事実だ。

介護休業コース × 有給介護休暇制度有給化支援の連動設計

令和8年4月8日新設の④介護休暇制度有給化支援(50万円・1事業主1回限り)は、就業規則に介護休暇を有給とする規定を新たに整備し、対象労働者が10時間以上の有給介護休暇を取得することが主な要件だ。

①介護休業コース(60万円 × 最大5人 = 300万円)と④(50万円)の同時活用で最大350万円の設計が可能だ。ただし、④は「令和8年4月8日以降に就業規則を整備したこと」が条件のため、既に整備済みの企業は対象外になる点に注意する。

逆算スケジュール

タイミング アクション
平時(今すぐ) 就業規則5点セット確認・未整備規定を整備。面談シートテンプレートをクラウドに保存。Slack社労士チャンネルを設置
介護発生決定時 Slack即時通知 → 面談日程を1週間以内に設定 → 申請期限をカレンダー登録
介護休業開始前 面談シートで個別面談実施 → 両立支援プランを策定・署名
介護休業中 ③業務代替支援(30万円)の手当支給・記録
職場復帰直後 復帰日・6ヶ月継続雇用期限・申請期限(翌日+2ヶ月)を再確認・カレンダー登録
職場復帰後6ヶ月経過後 雇用継続確認 → 申請書類を社労士と準備 → 労働局に提出

よくある質問(FAQ)

Q1. 有期雇用労働者も介護休業コースの対象になりますか?
A1. 対象になります。ただし職場復帰後6ヶ月の雇用継続が要件のため、有期雇用契約の更新タイミングと申請期限が重なる場合は事前設計が必要です。
Q2. 介護短時間勤務を利用した場合はどのコースが対象ですか?
A2. ②介護両立支援制度コース(40万円)が対象です。なお、令和8年度改正で②の対象から「所定外労働の制限制度」「深夜業の制限制度」「法を上回る介護休暇制度(無給)」が除外されたため、制度の組み合わせを確認してください。
Q3. 個別面談は社長が行っても問題ありませんか?
A3. 問題ありません。事業主本人でも担当者でも可能です。ただし面談シートに面談者・実施日・対象者・内容の4点を記録・保存することが必須です。
Q4. 介護休業コース(①)と業務代替支援(③)は同時申請できますか?
A4. 申請できます。①+③で最大90万円/人の設計が可能です。③の要件は介護休業中の業務代替者への月3万円以上の手当支給または新規採用です。
Q5. 令和8年4月8日の改正のポイントを教えてください。
A5. 主に2点です。(1)④介護休暇制度有給化支援(50万円・1事業主1回限り)が新設。(2)②介護両立支援制度コースの対象制度から所定外労働の制限等3制度が除外。令和7年度以前のスキームをそのまま適用しないよう注意が必要です。

まとめ

介護離職防止支援コース(介護休業コース)で不支給になる3パターンを整理する。

  • パターン①:個別面談の記録不備(Slack・口頭対応による証明不可、面談とプランの順序逆転)
  • パターン②:就業規則に規定のない措置を介護支援プランに盛り込む(2025年10月施行未対応、令和8年度除外制度の混同)
  • パターン③:申請期限の起算日誤認(「終了日の翌日」起算、分割取得時の起算日の混乱)

介護は「まだ先の話」として制度整備を後回しにするスタートアップが多い。しかし少人数スタートアップで中核人材が介護離職した場合のダメージは甚大だ。IPO審査の労務コンプライアンスでも介護関連規定の整備状況は確認対象になる。

就業規則の介護5点セットを今から整備し、介護発生の即時連携フローを作っておく——制度を先に整えてから有事に備えるのがスタートアップ人事の本筋だ。

参考文献