令和8年4月に新設された「有給介護休暇制度有給化支援」を知っているか

結論から言うと、令和8年4月8日以降に就業規則の介護休暇規定を「有給」に改定したスタートアップは、30万円の助成金を申請できる可能性がある。名称は「有給介護休暇制度有給化支援」——両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)の新設コンポーネントだ。

新設から半年が経った今、私のクライアント(シリーズA〜Bのスタートアップ中心)で実際に申請できた企業はまだごく少数しかない。理由は単純で、3つの構造的な取り逃がしパターンが存在するからだ。今月(2026年9月)中に就業規則整備に着手すれば、令和8年度内(2027年3月末まで)に申請が間に合う可能性は十分ある。

有給介護休暇制度有給化支援とは

育児・介護休業法が定める「介護休暇」は、要介護状態の家族を持つ労働者が年間5日(対象家族が2人以上なら10日)取得できる制度だ。ただし、法律は有給・無給の取り扱いを企業に委ねている。つまり、多くのスタートアップが使っているテンプレート就業規則では「無給」か「支給しないことがある」となっていることが多い。

これを「有給」に改定し、かつ実際に対象労働者が10時間以上利用すれば、厚生労働省の助成金(30万円)を受給できる。要件は次の2つだけだ。

  • 要件①:令和8年4月8日以降に、介護休暇を有給として取り扱う規定を就業規則または労働協約に明記すること
  • 要件②:改定後に、対象となる雇用保険被保険者が当該制度を10時間以上利用すること

後述する「介護離職防止支援コース(面談型・最大80万円)」と比べると、要件がシンプルだ。しかし取り逃がしが多い。なぜか。

パターン1:就業規則の「介護休暇」規定が無給または不明確なまま放置されている

スタートアップでよくあるのが、就業規則をひな形のまま使っているケースだ。育児介護休業法対応のひな形の多くは「介護休暇は有給とする」とは書かれていない。「有給か無給かは会社が定める」という構造になっているため、明示しないと「無給」として扱われる。

助成金の申請には「有給として取り扱う旨を就業規則に明記すること」が必要だ。「介護休暇を付与する」だけでは不足。「有給で付与する」「基本給の100%を支給する」など、有給である旨が明確に読み取れる文言が必要になる。

よくある誤解として、「育児休業規定は改定済みだから、介護関連も大丈夫」と思っているケース。育児休業と介護休暇は別の条項だ。育児部分だけ改定して、介護休暇の条項は手付かず——これが最も多い落とし穴だ。

対策は単純。就業規則の「介護休暇」の条項を開いて、「有給」または「賃金は第○条を適用し全額支給とする」といった文言が入っているかを確認する。入っていなければ令和8年4月8日以降の改定日付で追記する。これだけで要件①はクリアできる。

パターン2:制度は整備したが「10時間以上の実利用実績」が積み上がらない

要件②の「10時間以上利用」は、就業規則を改定するだけでは満たされない。実際に対象労働者が制度を使う必要がある。

スタートアップが陥るパターンは三通りある。

①周知不足で誰も使わない:有給化したことを従業員に伝えていないため、介護が発生した社員が「どうせ無給だし」と別の手段(有給休暇の充当など)で対応してしまう。助成金の対象は「介護休暇を取得した実績」であり、代替手段を使っていては実績にならない。

②「申し出にくい」文化:スタートアップのスピード文化では、介護が必要な家族を抱えていることを上長に言い出しにくい空気がある。結果として介護休暇の取得申請が出てこない。個別面談のオペレーションがない企業ほどこの傾向が強い。

③バックオフィス連携なし:介護事実が発生したことが社労士に伝わらない。申請のためには「介護休暇取得の記録(取得日・時間数)」が必要だが、これを正確に残しておかないと申請書類が整わない。

対策は就業規則改定と同時に「全員周知」を行うこと。メール一本ではなく、全体MTGでの案内や、Slackチャンネルでのアナウンスが有効だ。私のクライアントでは「人事ch」に有給化の内容を投稿し、さらに「介護が必要になったらバックオフィスチャンネルに報告する」オペレーションを整備することで、実利用の記録が自然と残る体制を作っている。

パターン3:「介護離職防止支援コース(面談型・最大80万円)」と要件を混同して申請準備が迷走する

これが最も複雑な落とし穴だ。

両立支援等助成金の介護離職防止支援コースには、大きく2系統の申請ルートがある。

  • 介護休業コース:個別面談→介護支援プラン策定→介護休業等の実施→職場復帰後6ヶ月継続就業→申請(最大80万円)
  • 有給介護休暇制度有給化支援:就業規則で有給化→10時間以上利用→申請(30万円)

スタートアップでよくあるのが、「介護の助成金は個別面談記録が必要で大変そう→様子見」という判断で両方を放置するケースだ。しかし有給介護休暇制度有給化支援には個別面談は不要。就業規則の文言と10時間の利用実績があれば申請できる。

もう一つの混同パターン:介護休業コースの「申請期限」(介護休業終了日の翌日から起算した期間)を有給介護休暇制度有給化支援にも適用しようとする誤り。有給介護休暇制度有給化支援は制度利用実績が確認できた後に申請する形式で、締め切りの計算方法が異なる。

私自身、数社のスタートアップクライアントで介護離職防止支援コースの申請支援をする中で、「面談型は難しそう」という理由でより簡単な有給介護休暇制度有給化支援も一緒に見送っていた例を複数体験した。制度を先に整えてから——これが原則だ。要件を正しく理解しさえすれば、有給介護休暇制度有給化支援は最も取り組みやすい両立支援系助成金の一つになる。

令和8年度内に間に合わせる逆算スケジュール

今(2026年9月)から動けば、令和8年度内(2027年3月末)の申請は十分現実的だ。

時期アクション
9月中就業規則の介護休暇条項を確認→有給化の文言を追記・改定
9月末〜10月頭全員周知(全体MTG+Slackアナウンス)+バックオフィス報告フロー整備
10月〜12月介護事例が発生した場合に取得記録を管理(日付・時間数)
10時間到達後申請書類一式を整えて労働局雇用環境・均等部(室)へ提出
〜2027年3月末令和8年度内での申請完了を目指す

注意点として、就業規則の有給化は「令和8年4月8日以降の改定であること」が要件だ。令和8年4月8日より前に有給化していた場合は対象外になる可能性がある。社労士に確認しながら進めてほしい。

介護離職防止コース連動で最大110万円設計

有給介護休暇制度有給化支援(30万円)を起点に、介護離職防止支援コース(介護休業・最大80万円)と組み合わせると、同一企業で最大110万円超の設計が可能になる。

鍵は就業規則の「介護5点セット」を一括整備すること。①介護休業(法定以上の設計)②介護短時間勤務③介護フレックス④有給介護休暇(←今回の有給化支援の対象)⑤柔軟な働き方選択制度(育介法2025年10月義務化分)——この5点を一度にまとめると、有給介護休暇制度有給化支援の申請と介護離職防止コース(個別面談型)の申請の両方に対応できる。IPO準備中のスタートアップであれば、就業規則整備がIPO労務監査の対応にもなる。一石三鳥だ。

FAQ

Q1. 30万円と50万円の違いは何ですか?

令和8年度の有給介護休暇制度有給化支援は中小企業事業主が対象で、基本支給額は30万円です。大企業については対象外または異なる扱いになる場合があります。「50万円」との表記がある場合は旧制度や他コースとの混同の可能性があります。最新の「両立支援等助成金支給申請の手引き(令和8年度版)」で確認してください。

Q2. 令和8年4月8日より前に有給化していた就業規則は対象外ですか?

基本的には対象外です。本コースは「令和8年4月8日以降に有給化した」ことが要件になっています。ただし細部は改正タイミングや運用解釈によって変わる可能性があるため、管轄の労働局または社労士に確認することを推奨します。

Q3. 「10時間以上の介護休暇」の数え方を教えてください。

育児・介護休業法上の「介護休暇」の実利用時間です。育児休業・介護休業(連続する長期のもの)とは別に管理します。1日や時間単位での取得を積み上げて10時間以上になれば要件を満たします。勤怠管理システムで「介護休暇(有給)」の区分を設けておくと記録が残りやすくなります。

Q4. 介護離職防止支援コース(面談型)と同時に申請できますか?

同一の介護事例・同一の労働者に対して二重申請はできません。ただし別の労働者の介護事例や、別の取り組み(介護休業コース)との組み合わせは設計次第で可能です。具体的な連動設計は社労士に相談してください。

Q5. 就業規則の改定を社内で行っても助成金申請できますか?

就業規則の改定自体は自社で行うことは可能です。ただし「有給化の要件を満たす文言になっているか」「改定日付が令和8年4月8日以降になっているか」「労働者代表への意見聴取や労基署への届け出手続きが適切か」を社労士にレビューしてもらうことを強く推奨します。文言の不備で不支給になるケースは少なくありません。

参考文献

  • 厚生労働省「両立支援等助成金支給申請の手引き(2026(令和8)年度版)」(https://www.mhlw.go.jp/content/001716063.pdf)
  • 厚生労働省「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)令和8年4月8日改正版」(https://www.mhlw.go.jp/content/001690644.pdf)
  • 厚生労働省「育児・介護休業法について(介護休暇制度の概要)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu01/index.html)
  • 厚生労働省「子ども・子育て両立支援等助成金のご案内」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html)