「派遣を使えば育休代替の助成金がもらえる」——そう思ったら読む記事
令和8年度の両立支援等助成金の拡充(新規雇用最大81万円・雇用労働者数要件撤廃)を受けて、スタートアップクライアントから「派遣で代替要員を入れれば育休中等業務代替支援コースがもらえますよね?」という相談が一気に増えた。
結論から言うと、派遣受入で申請まで辿り着けるのは相談件数の半分以下だ。不支給になるパターンは明確で、事前に知っていれば構造的に防げる。この記事でまとめて解説する。
育休中等業務代替支援コースとは
育児休業取得者や育児短時間勤務利用者の業務を代替する際に、国が費用の一部を助成する制度。令和6年1月に新設され、令和8年度にさらに拡充された。
コースは大きく2つに分かれる。
| コース | 概要 | 主な支給上限(1名・1か月以上育休) |
|---|---|---|
| 手当支給等 | 周囲の労働者に手当を支給したうえで育休取得者の業務を行わせる | 最大125万円 |
| 新規雇用・派遣受入 | 代替要員を新規採用または派遣で受け入れる | 最大81万円 |
スタートアップが「派遣を使う」場合は後者の「新規雇用・派遣受入」に該当する。令和8年度から雇用労働者数要件が撤廃され、社員数が少ないスタートアップでも申請可能になったが、要件の複雑さは変わっていない。
不支給パターン①:派遣契約の開始時期が妊娠認知日より前
最も頻出する不支給パターンだ。
新規雇用・派遣受入コースでは、「雇用契約または派遣契約の始期が、事業主が妊娠の事実を知った日(妊娠認知日)以降であること」が必須要件だ。
スタートアップでよくあるのが、こういうケースだ。
4月に人手不足で派遣社員を受け入れた →5月に社員から妊娠・育休の申請が来た →「ちょうど派遣がいるから代替要員として申請しよう」→ 派遣契約の開始日が妊娠認知日より前なので不支給
「たまたま派遣がいた」では認められない。あくまでも育休発生後に代替のために派遣を手配した、という時系列が必要だ。
妊娠の報告を受けたその日にSlackの社労士チャンネルへ連絡し、そこから派遣会社への打診を始めるフローを作っておかないと、この要件はほぼ確実に見落とす。
対策チェックリスト
- 妊娠・育休申請を受けた当日に社労士へ通知(Slackで即時共有)
- 派遣会社へのオーダー日が妊娠認知日以降の日付であることを記録に残す
- 派遣契約書の開始日が妊娠認知日の翌日以降になっているか締結前に確認
不支給パターン②:代替要員の業務内容が育休取得者と不一致
2番目に多いのが業務一致の証明問題だ。
代替要員として認められるには、「対象育休取得者の業務を実際に代替していること」が要件になっている。
スタートアップで就業規則の職務定義が曖昧な場合、「オールラウンダーとして採用した派遣」が代替要員と認められないことがある。
育休取得者の担当業務は「マーケティング・SNS運用」→ 派遣社員は「一般事務で採用」→ 実務では業務が重複していたが、書類上の職務記載が一致していない → 不支給
就業規則の職務定義が「必要に応じて業務を担当する」という曖昧な表記になっていると、審査段階で業務の一致が説明できない。さらに、引き継ぎ資料や業務分担の書面がなければ実態も証明できない。
制度を先に整えてから助成金を狙う、が私の原則だ。就業規則に職務定義がなければ、まずそこから着手する。
対策チェックリスト
- 就業規則に職務・業務内容の定義を明記する(「必要に応じて」は避ける)
- 派遣契約書の「業務の種類」欄を育休取得者の業務と一致するよう記載する
- 育休取得者の業務引き継ぎ資料と派遣社員のタスクリストを保管(書類エビデンス)
不支給パターン③:申請期限の起算日を「育休開始日」と誤認する
3つ目は期限管理の問題だ。特に経理と労務を兼務しているバックオフィス担当者が陥りやすい。
申請期限は「育休終了日の翌日から2か月以内」が基本だ。育休開始日ではない。
新規雇用・派遣受入コースの場合、育休期間中に代替業務を行い、育休が終了したタイミングで申請タイミングが来る。育休開始から終了まで1年近くかかるケースもあり、「そのうち申請すればいい」と思っていると期限を逃す。
育休開始:4月 → 育休終了:翌年3月 → 申請期限:翌年5月末(育休終了翌日から2か月以内)
私のクライアントでは、育休発生時点でGoogleカレンダーに「育休終了予定日の1か月前」のリマインダーをセットし、そのタイミングから申請書類の準備を開始する運用を標準化している。これだけで申請期限超過はほぼゼロになる。
対策チェックリスト
- 申請期限は育休「終了日の翌日」が起算点(2か月以内)
- 育休発生時点でカレンダーに終了予定日と申請期限をセット
- 申請書類の準備は育休終了の1か月前に着手
- 少人数企業では申請期限管理のオペレーション化が必須
企業規模別の推奨コース:10名以下は「手当支給等」が有利なケース多数
「新規雇用・派遣受入」の最大支給額は81万円、「手当支給等」は最大125万円だ。単純な支給額の差だけでなく、要件の複雑さと不支給リスクを考えると、企業規模によって推奨コースが変わる。
| 企業規模 | 推奨コース | 理由 |
|---|---|---|
| 社員30名以上 | 新規雇用・派遣受入 | 業務分担が明確で、派遣との役割分離を書類で説明しやすい |
| 社員10〜30名程度 | 状況に応じて選択 | 就業規則の職務定義の整備状況次第 |
| 社員10名以下 | 手当支給等 | 支給額が大きく(最大125万円)、要件も相対的にシンプル |
10名以下のスタートアップから「派遣を使いたい」という相談が来たとき、私は必ず「手当支給等で設計し直せないか」を先に確認する。81万円と125万円の差額44万円は小さくないし、派遣コースで不支給になるリスクを考えれば、手当支給等の方が合理的なことが多い。
育休発生後の逆算スケジュール(新規雇用・派遣受入コース)
- 妊娠報告・育休申請受領 → 即日Slackで社労士チャンネルに共有
- 派遣会社への打診・候補選定 → 妊娠認知日以降の日付で記録を残す
- 派遣契約締結 → 開始日が妊娠認知日以降であることを確認・署名
- 育休開始 → 育休期間中 → 代替業務の実施記録(タスクリスト・業務日報)を保管
- 育休終了1か月前 → 申請書類の準備開始(ハローワーク確認)
- 育休終了翌日〜2か月以内 → 申請
よくある質問(FAQ)
Q1. 「手当支給等」コースと「新規雇用・派遣受入」コースは同じ育休取得者に対して同時に使えますか?
同一の育休取得者に対して両コースを同時に使うことは原則できません。どちらかを選択します。ただし、異なる育休取得者に対してそれぞれ別のコースを使うことは可能です。
Q2. 育休取得者が「エンジニア」の場合、派遣エンジニアでなければいけませんか?
必ずしも同一職種でなくても構いませんが、「業務を代替している」という実態と書類上の説明が一致している必要があります。派遣契約書の「業務の種類」欄と就業規則の職務定義が連動していると審査がスムーズです。
Q3. 産後パパ育休(出生時育児休業)も対象になりますか?
対象になります。産後パパ育休取得者の業務代替も本コースの申請対象です。育休の種類によって申請タイミングの計算が異なる場合があるため、個別に社労士と確認することをお勧めします。
Q4. 派遣会社から「育休代替だ」と伝えずに派遣を入れた場合はどうなりますか?
リスクがあります。派遣先が派遣会社に育休代替である事実を隠して契約した場合、不正受給と判断される可能性があります。派遣契約を締結する際は育休代替である旨を明示したうえで、派遣元と確認することが必要です。
Q5. 代替要員の派遣期間が短い(1か月未満)場合も申請できますか?
申請は可能です。ただし育休期間が1か月未満の場合は支給額が大幅に下がります(業務体制整備経費は2万円)。育休期間と代替期間が短い場合は、手当支給等コースと支給額を比較してから選択することをお勧めします。
まとめ
育休中等業務代替支援コース(新規雇用・派遣受入)でスタートアップが不支給になる3パターンをまとめた。
- 派遣契約の開始時期が妊娠認知日より前(育休発生後に手配を始めなければならない)
- 代替要員の業務内容が育休取得者と不一致(就業規則の職務定義と書類エビデンスが必要)
- 申請期限の起算日誤認(育休開始日ではなく終了日の翌日が起算点)
3つとも「育休が発生してから動いても間に合わない」パターンだ。制度設計は育休発生前に完了させておくのが原則で、就業規則の整備・Slackのオペレーション・申請カレンダーの3点を事前に準備しておけば防げる。
社員10名以下のスタートアップは、派遣受入コースではなく手当支給等(最大125万円)で設計し直した方が要件もシンプルで支給額も大きくなるケースが多い。まず自社の規模と就業規則の整備状況を確認してから、どちらのコースが最適かを検討してほしい。






