「補助上限9,000万円」という数字に引き寄せられて、グローバル枠を選んだ研究開発型中小企業の経営者から、最近こんな相談が連続している。「公募要領を読んだら、うちの計画がそもそも対象外でした」——。
8月31日の受付開始まで残り9日というタイミングで、地場ベンチャー仲間の勉強会にも同じパターンの相談が3件来た。全員がグローバル枠の詳細要件を確認しないまま計画を進めていた。うちで実際に取った時の話なんですけど、グローバル枠ではなく革新的新製品・サービス枠で出した経緯があって、その時にグローバル枠の公募要領も並べて精読していたから「ここで詰まるやろうな」とすぐ分かった。
今回は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第1回公募・申請受付8月31日〜9月30日、締切10月30日18:00)の「グローバル枠」で、研究開発型中小企業が申請直前に書き直しを迫られる3つのパターンを整理する。
グローバル枠は補助上限最大9,000万円・補助率2/3と数字だけ見れば魅力的だが、公募要領を3回読んでみたら、入口で詰まる構造的な落とし穴が3つあることが見えてくる。
パターン1:旧4類型との混同——「インバウンド対応」も「海外直接投資」も新制度では対象外
旧制度との決定的な違い
旧ものづくり補助金のグローバル市場開拓枠(第22次・23次)は、以下の4類型のいずれかに対応していた。
- 海外市場開拓(輸出)事業
- インバウンド対応事業(訪日外国人向けのサービス整備)
- 海外直接投資事業(海外子会社への設備移管等)
- 海外企業との共同事業(共同研究・共同開発)
ところが新事業進出・ものづくり補助金のグローバル枠は、この4類型から「自社製品等の輸出に向けた国内の輸出体制強化」の1類型に完全一本化された。インバウンド対応も、海外子会社への直接投資も、海外企業との共同研究開発も——これらはグローバル枠の対象外になった。
研究開発型中小企業が特にハマる3ケース
①旧制度のインバウンド対応型で採択実績がある企業:旧グローバル枠でインバウンド対応として採択を受けた企業が、新制度でも同様の申請を計画するケース。旅行者向けの製品・サービス体制を強化するための設備投資は、新制度のグローバル枠では対象外になる。
②研究開発した技術を海外子会社で量産したい企業:国内で研究開発を完了し、次フェーズとして海外法人での製造・量産に移行しようとするケース。グローバル枠は「国内の輸出体制強化」が前提で、海外拠点への直接投資・設備移管は対象外。補助金の目的が「国内拠点の輸出競争力強化」にある点を理解する必要がある。
③取引先(商社・大企業)主導の輸出プロジェクト:「輸出」の文字に引かれて申請するが、公募要領には「取引先主導の事業は補助対象外」と明記されている。自社が自発的に新たな国・地域の市場を開拓する取組でなければ、輸出関連の設備投資でも対象外になる。OEM受注の生産ラインを増強するための設備投資も該当しない。
判断のポイント
グローバル枠を選ぶ前に、「自社製品等の輸出に向けた国内の輸出体制強化」で事業を一言で説明できるか確認すること。説明が「自社ブランドの製品を国内ラインで量産し、新規の海外市場に輸出する体制を構築する」で完結するなら対象。「海外子会社で作る」「訪日客向けのサービスを整備する」「取引先からの輸出依頼に対応する」のいずれかに近ければ、革新的新製品・サービス枠や新事業進出枠が適切かを検討する。
パターン2:ワークライフバランス対策の直前漏れ——グローバル枠特有の追加要件で形式不備になる
他の枠にないグローバル枠の追加必須要件
新事業進出・ものづくり補助金のグローバル枠には、革新的新製品・サービス枠・新事業進出枠・省力化オーダーメイド枠にはない「ワークライフバランス対策」の要件がある。具体的には、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・公表が申請の必須条件になっている。
「うちは従業員10人以下だから関係ない」と思ったら要注意だ。通常は従業員101人以上の企業に義務付けられている制度だが、グローバル枠の申請者に対しては従業員規模に関係なく独自の要件として課されている。
なぜ直前に詰まるか
一般事業主行動計画の策定から公表までには、以下のプロセスが必要だ。
- 計画の策定(行動計画の目標設定・計画期間の決定)
- 社内への周知(全従業員への説明・合意形成)
- 都道府県労働局への届出(行政処理期間:数営業日〜1週間)
- 自社のウェブサイト等での公表
これらが完了するまで、最低でも2〜3週間は必要になる。10月30日の締切から逆算すると、10月初旬(遅くとも10月7日頃)には公表が完了している状態でなければならない。9月末になって初めて気づいた場合は、計画を立てる時間も届出処理時間も足りなくなるリスクが高い。
GビズIDと同時並行で動く必要がある
グローバル枠の申請にはGビズIDプライムが必須だ。GビズIDの書類審査は2026年7月の仕様変更以降、最大1ヶ月かかるケースがある(マイナンバーカードでのオンライン即日取得が唯一の救済策)。つまり今この瞬間、GビズIDと一般事業主行動計画の両方を並行で動かす必要がある。
公募要領を3回読んでみたら、「ワークライフバランス対策」の要件は申請要件の中でも比較的目立たない場所に記載されている。1回さらっと流し読みをしただけでは見落としやすい、典型的な落とし穴だ。特に研究開発型のスタートアップ・小規模企業では、WLB施策の整備が後回しになりがちで、この要件の存在に気づくのが遅れやすい。
パターン3:補助下限750万円と機械装置費必須の誤算——「補助額9,000万円」だけ見て申請した研究開発型中小企業が経費計画で詰まる
グローバル枠の2つの経費制約
グローバル枠には、他の枠にない重要な経費制約が2つある。
①補助下限額が750万円:革新的新製品・サービス枠の補助下限額が従業員規模によっては100万円程度なのに対し、グローバル枠は補助下限額が750万円に設定されている。補助率2/3のため、補助対象経費が最低でも1,125万円以上の計画でなければ申請できない。
②機械装置費または建物費のいずれかが必須:グローバル枠では、機械装置・システム構築費か建物費のどちらかを計上することが必須とされている。対象経費には海外旅費・通訳翻訳費・知的財産権関連経費・外注費・専門家経費・広告宣伝・販売促進費も含まれるが、これらのみで1,125万円以上の計画を組んでも、形式要件を満たさない。
研究開発フェーズが終わっていないと詰まる
研究開発フェーズの企業は、経費の大半が「人件費(補助対象外)」「外注費」「知財費」で構成されることが多い。機械装置費は付随的に計上されるにすぎない。
ところがグローバル枠で輸出体制を強化するには、「輸出向け製品の品質管理装置」「海外規格(CE・FCC・UL等)に対応した検査ライン」「輸出用パッケージング設備」など、具体的な設備投資がセットになっている必要がある。これはつまり、グローバル枠は研究開発が完了し「事業化フェーズで輸出体制を整備する段階」に入った企業に向いた枠だという理解につながる。TRL(技術成熟度)で言えばTRL 8〜9の段階だ。
「付加価値額4.0%・賃上げ3.5%の基本要件は他の枠と同じ。あとは輸出要件とWLBを追加で満たすだけ」という理解で計画を立てると、経費計画の段階で補助下限額・機械装置費必須の壁に当たる。TRL 5〜7の段階で輸出を見据えているなら、まず革新的新製品・サービス枠で研究開発を進め、採択後にグローバル枠で輸出体制整備という段階的な設計が現実的だ。
グローバル枠特有の対象経費:海外旅費・通訳翻訳費
グローバル枠では他の枠にない対象経費として、海外旅費と通訳・翻訳費が計上できる。海外の展示会への出展費用、輸出先での現地市場調査の旅費、製品カタログや取扱説明書の翻訳費などが該当する。ただし、これらだけで補助下限額750万円分の補助対象経費を賄うことは現実的でなく、機械装置費と組み合わせた計画設計が前提になる。
グローバル枠の申請前チェックリスト(5項目)
- □ 「自社製品等の輸出に向けた国内の輸出体制強化」で事業内容を一言で説明できるか(インバウンド・海外直接投資・受託輸出ではないか)
- □ 一般事業主行動計画の策定・公表が10月7日(締切3週間前)までに完了できるか
- □ GビズIDプライムは取得済みか(未取得なら今週中に手続き着手が必須)
- □ 機械装置費または建物費の計上が経費計画に含まれているか
- □ 補助対象経費の合計が1,125万円以上(補助下限額750万円÷補助率2/3)になっているか
10月30日締切からの逆算スケジュール
| 時期 | アクション |
|---|---|
| 8月22日(今週中) | 一般事業主行動計画の策定着手 / GビズIDプライム未取得なら即申請 |
| 8月末〜9月初旬 | 一般事業主行動計画の労働局届出・自社ウェブサイト公表完了 |
| 9月初旬(8月31日〜) | 申請受付開始 / 機械装置費を含む経費計画確定・見積書取得 |
| 9月中旬 | 輸出先市場の具体的な市場調査データ取りまとめ・事業計画書作成 |
| 9月下旬〜10月初旬 | 申請書類の最終確認・電子申請 |
| 10月30日18:00 | 締切(厳守) |
よくある質問(FAQ)
Q1. グローバル枠で海外の展示会に出展する費用は補助対象になりますか?
A. 海外旅費は補助対象経費に含まれます。ただし、機械装置費または建物費との組み合わせが必須であり、海外旅費のみで1,125万円(補助下限750万円÷2/3)を超えることは現実的に難しい設計です。また、取引先主導の展示会への参加ではなく、自発的な新規販路開拓の一環であることが要件です。
Q2. 旧ものづくり補助金グローバル枠のインバウンド対応で採択実績がある企業が、新制度で同様の申請をするとどうなりますか?
A. 新制度のグローバル枠は「輸出に向けた国内体制強化」のみが対象であり、インバウンド対応事業は対象外となります。旧制度の採択実績は新制度の審査で加点にもなりませんし、旧制度の申請書をそのまま流用しても形式要件を満たしません。申請する場合は、革新的新製品・サービス枠や新事業進出枠が適切かを公募要領で確認してください。
Q3. 従業員10人以下の研究開発スタートアップでも一般事業主行動計画の策定・公表が必要ですか?
A. グローバル枠に申請する場合は、従業員規模に関わらず一般事業主行動計画の策定・公表が必須要件です。策定→届出→公表まで最低2〜3週間かかるため、10月30日の締切から逆算すると今週中の着手が現実的な最終ラインです。
Q4. 研究開発が完了していない段階(TRL 5〜7)でグローバル枠に申請することは可能ですか?
A. 申請の形式要件上は、TRLの明示は求められていません。ただし、グローバル枠は「輸出体制の強化」が目的であり、研究開発中の段階では「すでに輸出できる製品が存在する」ことの説明が難しくなります。研究開発フェーズなら革新的新製品・サービス枠で申請し、事業化後にグローバル枠を活用する段階的な設計が審査上の整合性を保つ現実的な方法です。
Q5. 機械装置費の計上は必須と聞いていますが、ソフトウェア開発がメインの研究開発企業はどうすればよいですか?
A. グローバル枠では「機械装置・システム構築費」または「建物費」のいずれかが必須です。ソフトウェア開発企業の場合、「システム構築費」として輸出向け製品のシステム構築費用が計上できるケースがあります。ただし、これが「輸出体制強化」としての説明ができるか、公募要領の審査基準と整合するかを事前に確認することが重要です。





