新事業進出・ものづくり補助金(第1回)の受付が今日8月31日から始まりました。10月30日の締切まで残り60日。うちで実際に取った時の話なんですけど、最初に書面審査で落ちた申請書を振り返ると、共通していたのは「技術的優位性の記述に客観的根拠がなかった」こと。「業界初」「他社にない」という言葉を並べながら、審査員が検証できる比較データがゼロだったんです。
公募要領を3回読んでみたら、技術面の審査項目に「研究開発内容が技術的に優れており実現可能性があるか」という評価軸が明記されていました。「技術的に優れており」という部分——これは自社の主観だけでは評価できません。審査員が外部から検証できる根拠を3点セットで揃えて初めて、書面審査の技術面で点が取れます。
今回は革新的新製品・サービス枠に申請する研究開発型中小企業が、先行特許調査(J-PlatPat)・学術文献調査・競合他社比較の3軸を怠って技術的優位性の根拠が薄くなり、書面審査で落とされる3つのパターンを整理します。
パターン1:J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)を使わずに「特許出願中」だけで独自性を主張する
何が起きているか
技術的優位性の欄に「当社では○○技術の特許を出願中です」とだけ書いてある申請書が多い。出願中であることは独自性の指標にはなりますが、審査員の視点では「出願中」と「登録済み」では証明力がまったく異なります。さらに問題なのは、先行特許調査をしていないケースです。
J-PlatPat(特許情報プラットフォーム、INPIT運営・無料)を使えば、国内外の関連特許を無料で検索できます。「類似技術の先行特許が○件あるが、自社技術との差分は△△の手法にある」という形で比較を示せるかどうかが、書面審査の技術面評価の分岐点になります。
なぜ審査で落ちるか
公募要領の技術面審査では「研究開発の内容が技術的に新規性を有し、技術的課題の解決手段が具体的に示されているか」という評価軸があります。先行特許と自社技術の差分を定量的に示せない申請書は、審査員にとって「本当に新しいのか」の判断がつかない。技術面スコアが下がります。
正しい書き方:先行特許調査の3ステップ
- J-PlatPatでキーワード+IPC分類検索:自社の技術キーワードと国際特許分類(IPC)を組み合わせて検索し、直近10年の関連特許を抽出する
- 先行特許と自社技術の差分表を作成:「先行特許では○○まで実現できているが、□□の課題が残る。自社技術は△△の手法でこの課題を解決する」という形で3行以内に整理する
- 比較根拠を数値で示す:処理速度・精度・コスト・環境負荷など測定可能な指標で定量差分を記載する
テンプレで時短すると、この差分表を申請書の「技術的優位性」欄に別紙として添付する形が最も審査員に伝わりやすい。J-PlatPatの検索結果から関連特許の公開番号と発明の名称を3〜5件ピックアップし、自社技術との差分を1行ずつ記述するだけでいい。
パターン2:学術文献調査(CiNii・J-STAGE)をせずに「社内データ」だけで技術的正当性を主張する
何が起きているか
「自社実験データによれば○○が△△%向上した」という数値が入っているにもかかわらず、比較対象が自社の旧技術だけで、学術的・業界標準との対比がない申請書が多い。これでは「うちの内輪比較では良かった」という印象を与えてしまいます。
特に公設試(公設の試験研究機関)との連携なしで申請している場合、社内データの信頼性に審査員は疑問を持ちやすい。外部の客観的エビデンスとして学術文献を引用することが、社内データの補完として機能します。
なぜ審査で落ちるか
技術面の審査では「研究開発の内容が学術的・技術的に新規性を有するか」という観点が含まれています。CiNii Research・J-STAGEを参照して「既存研究では○○まで達成されているが、△△の壁が残る。自社の研究はこの壁を□□の方法論で超える」という構造にしないと、審査員は新規性を外部から確認できません。
正しい書き方:学術文献活用の3点セット
- 比較文献の選定:自社技術領域の査読論文(直近5年)をCiNii ResearchまたはJ-STAGEで3本以上ピックアップする
- 現状の学術的限界の明示:「○○(著者・雑誌名・年)では△△まで達成されているが、□□という課題が未解決のままである」という形で、現在の研究水準における課題を言語化する
- 自社技術のポジショニング:既存研究の到達点を超える部分を「測定可能な指標で」示す
公設試との連携がある場合は、連携先の試験設備で計測したデータを「外部検証済みデータ」として活用できます。連携先がない場合でも、JIS認定試験所等への試験委託記録が代替になります。
パターン3:競合他社製品との比較が「高精度・低コスト」の定性的羅列になっていて差別化要因が伝わらない
何が起きているか
競合比較表を添付しているが「自社製品:高精度、競合A社:低精度」という定性的記述の羅列になっている申請書が多い。これでは審査員は「どのくらい高精度か、なぜ競合はそこまで到達できていないのか」が分からない。
なぜ審査で落ちるか
公募要領を3回読んでみたら、技術面の審査で求められているのは「技術的課題を解決するための手段の有効性・実現可能性」です。競合他社が「なぜその性能に留まっているか」の構造的理由(材料・製法・設計上の制約)を示さないと、自社の技術的アプローチが本当に有効かどうかを審査員は判断できません。
正しい競合比較:3社照会+構造的差分
- 競合メーカー3社へのメール照会:電話ではなくメールで「御社製品では△△の性能が限界になる技術的理由を教えていただけますか」と問い合わせ、回答(または「対応不可」の事実)をPDFで保存する。これは後で業者選定理由書にも流用できます
- 構造的限界の言語化:「競合A社は□□材料を使用しているため温度変化に弱く○○以上の精度が出せない」「競合B社の設計では工程数が多く製造コストが○○円以下に下がらない」という形で、競合の限界の「原因」まで示す
- 測定可能な差分の記載:「自社技術では△△材料+○○製法の組み合わせで、競合比△△%の精度向上・□□%のコスト削減を自社実験値で確認済み」という数値で締める
技術的優位性の根拠3点セット・まとめ
| 根拠の種類 | 使うツール・方法 | 申請書への書き方 | 準備リードタイム |
|---|---|---|---|
| 先行特許との差分 | J-PlatPat(無料) | 先行特許○件との差分表(別紙可) | 1〜2週間 |
| 学術文献との差分 | CiNii Research・J-STAGE | 参考文献3本以上を引用した現状限界の記述 | 1週間 |
| 競合製品との差分 | 競合メーカーへの照会メール | 3社照会記録+定量差分(実験値) | 2〜3週間(回答待ち込み) |
競合照会の回答取得が最も時間がかかります。10月30日の締切から逆算すると、競合メーカーへの照会メールは9月第2週(9月8〜12日)までに送っておく必要があります。10月第1週まで放置すると回答が来ないまま締切を迎えるリスクがあります。
10月30日締切からの逆算スケジュール
| 期間 | やること |
|---|---|
| 9月1〜7日 | J-PlatPat先行特許調査・CiNii文献調査・競合メーカーへの照会メール送信 |
| 9月8〜19日 | 先行特許差分表・学術文献引用の整理、競合照会の回答待ち・受取 |
| 9月20〜30日 | 技術的優位性の章を完成、口頭審査想定Q&Aの準備開始 |
| 10月1〜20日 | 申請書全体の整合性チェック・認定支援機関レビュー・jGrants入力 |
| 10月21〜27日(社内締切推奨) | 最終確認・提出(システム混雑リスク回避のため27日社内締切を推奨) |
申請前チェックリスト(技術的優位性の根拠3点)
- □ J-PlatPatで先行特許を10件以上検索し、関連特許リストを作成した
- □ 先行特許3件以上と自社技術の差分を定量的に示せる比較表がある
- □ 学術文献(査読論文)を3本以上引用し、現在の研究水準の限界を明示した
- □ 競合メーカー3社にメールで技術照会を行い、回答またはPDF記録がある
- □ 技術的優位性の数値(精度・速度・コスト等)が自社実験値に基づいている
- □ 「業界初」「他社にない」という記述に、具体的な比較根拠が添付されている
- □ 口頭審査で「競合との差分を説明してください」と聞かれたとき、3分以内で答えられる
よくある質問(FAQ)
Q1. J-PlatPatは特許の素人でも使えますか?
A. キーワード検索と出願人検索であれば、特許の専門知識がなくても使えます。INPITが無料で提供する「J-PlatPat使い方ガイド」と特許庁のワンポイントレッスン動画を活用すると、1〜2時間で基本操作を習得できます。補助金申請レベルの先行技術調査であれば、弁理士に依頼しなくても自社でできます。なお、法的に完全な特許侵害調査は弁理士に依頼する必要がありますが、申請書の技術的優位性記述に使う先行技術調査レベルは自社実施で十分です。
Q2. 競合他社がメールへの回答を拒否したらどうすればいいですか?
A. 回答を拒否した(または無視した)という事実が「客観的証拠」になります。「競合A社に技術的制約について問い合わせたが、仕様上の制約について開示不可との回答(または無回答)」という形で申請書に記載し、そのメールのスクリーンショットを証拠として保存してください。これはものづくり補助金の業者選定理由書の3点セット(競合照会記録)にも流用できます。
Q3. 特許出願中の技術は技術的優位性の根拠になりますか?
A. 「出願中」は独自性の指標として記載できますが、それ単体では弱い。「○○特許(出願番号:特願○○-○○○○○)を出願中であり、先行特許との差分は△△という点にある」という形で先行特許との定量的差分を補完してください。出願中の特許と先行特許の関係を明確にすることで、審査員は独自性を客観的に判断できます。
Q4. 公設試連携がない場合、社内実験データだけで技術的優位性を示せますか?
A. 示せますが、学術文献引用と競合照会を組み合わせることで補完する必要があります。公設試連携がある場合は、連携先の試験設備で計測したデータを「外部検証済みデータ」として使えるメリットがあります。連携先がない場合は、JIS認定試験所等への試験委託の記録が代替として機能します。
Q5. 学術文献がない(まったく新しい技術分野)の場合はどうすればいいですか?
A. 完全に文献がない分野は稀で、多くの場合「隣接分野」の文献があります。自社技術の直接的な文献がない場合は、技術的な課題の原因となっている物理現象・化学反応・材料特性の分野の文献を引用し「この課題は学術的に未解決であることが○○(文献名)で示されており、自社はアプローチXで解決策を見出した」という形で示してください。審査員に「なぜまだ解決されていないか」の構造的理由が伝われば、新規性は認められます。
参考リンク
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイト(中小機構) — 公募要領・様式・FAQ・スケジュール
- J-PlatPat(特許情報プラットフォーム) — INPIT運営・国内外の特許・実用新案・意匠・商標を無料検索
- CiNii Research(国立情報学研究所) — 日本語学術論文のデータベース(無料)
- J-STAGE(JST) — 日本の学会誌・紀要のフルテキスト(多くが無料で閲覧可能)





