新事業進出・ものづくり補助金(第1回・締切10月30日)の革新的新製品・サービス枠で研究開発型中小企業が「月別マイルストーンの粗さ・技術的優位性の主観的記述・研究体制と人件費の不整合」で書面審査を通過できない3つの構造

「口頭審査の対策は調べたけど、そもそも書面で落とされてる気がして……」

2026年8月31日から第1回公募の受付が始まった新事業進出・ものづくり補助金。地場ベンチャー仲間の勉強会にここ最近、革新的新製品・サービス枠で不採択になった研究開発型の経営者から相談が立て続けに3件来た。全員に共通していたのが「口頭審査まで進めていない」という点。つまり、書面審査の段階で弾かれていた。

口頭審査の攻略法は最近かなり整理されてきた。でも書面審査で落ちる構造的な原因は、意外とまだ言語化されていない。公募要領を3回読んでみたら、研究開発型の申請書が書面審査で詰まるパターンが3つに収束することがわかった。今回はそれを体系化する。

締切は2026年10月30日(第1回)、受付開始は8月31日。申請書を書き始めている方には今日中に確認してほしい内容だ。

前提:書面審査で何が評価されているか

新事業進出・ものづくり補助金(革新的新製品・サービス枠)の審査項目は大きく「技術面」「事業化面」「政策面」の3つ。口頭審査はこれらを申請者自身が説明できるかを確認する場だが、書面審査はその前段として、補助事業計画書で審査員に読んでもらう工程だ。

審査員は多数の申請書を並行して読む。「この研究は本当に実現できるのか」「この技術は本当に革新的なのか」「この体制で10か月の研究開発が回るのか」の3点を、計画書の文面と数値から判断している。ここで引っかかる3パターンを見ていこう。

パターン①:月別マイルストーンが粗すぎて「実現可能性」が伝わらない

よくある書き方

研究開発計画書のスケジュール欄にこう書かれているケースが多い。

  • 第1〜3か月:基礎研究・文献調査
  • 第4〜7か月:試作品開発
  • 第8〜10か月:性能検証・改良

一見まとまっているように見える。でも審査員の目には「この人、本当に10か月でできると思っているのか?」と映る。

なぜ審査で刺さらないか

問題は2つある。

①達成判定基準(数値)がない。「試作品開発」は完了したのか未完了なのか、何をもって「できた」と判断するのかが不明。審査員が求めているのは「第4か月末時点で引張強度○○MPa以上の試作品を1点完成させる」という水準。これがないと「何となく研究します」という計画書と区別がつかない。

②設備調達期間を考慮していない。実施期間10か月(交付決定後)のうち、特注研究設備の納期は通常3〜6か月。うちで実際に取った時の話なんですけど、ものづくり補助金で特注の検査装置を導入しようとして、メーカーの材料調達難で3か月遅延した経験がある。設備が届かないと研究が始まらない。「第1〜3か月に設備搬入、第4か月から研究開始」という現実的なスケジュールでなければ、審査員には「この計画は実現不可能」と映る。

正しい書き方の型

月別マイルストーンには以下の3点セットが最低ライン:

  1. 数値目標(何を、どの水準で達成するか)
  2. 達成判定基準(どうやって確認するか)
  3. 未達時の対応策(代替プランは何か)

例えば「第6か月末:試作品1号機の耐熱試験(200℃×100時間)で変形率2%以下を達成。未達の場合は材料配合比を見直し第7か月末に再試験」という形。これが入ると、審査員は「この申請者は本気で研究計画を考えている」と判断する。

チェックポイント①
月別マイルストーンに「数値目標+判定基準+未達時の対応策」の3点セットが入っているか?設備搬入期間(3〜6か月)を差し引いた実質的な研究期間で計画を組んでいるか?

パターン②:「業界初」「他社にない」の主観的記述だけで技術的優位性を数値で示せていない

よくある書き方

「本製品は業界初のX×Y方式を採用しており、従来技術にはない革新的な性能を有している」

こういった記述が事業計画書の技術優位性欄に並んでいる。書いた本人は自信満々なのだが、審査員には何も伝わっていない。

なぜ審査で刺さらないか

「業界初」の根拠は誰が証明するのか?「革新的」の定義は何か?審査員はこれを客観的に評価する手段を持っていない。

審査員が求めているのは「業界標準品の引張強度が200MPaであるのに対し、本技術では350MPa(75%向上)を達成する」という具体的な差分と根拠だ。公募要領を3回読んでみたら「技術的優位性の根拠となるデータや試験結果等を具体的に記載すること」という記載があった。定性表現+定量根拠ゼロの申請書は審査員が評価のしようがない状態になる。

正しい技術的優位性の書き方

競合比較には以下の3点セットが必要:

  1. 比較対象の明示(どの製品・技術との比較か)
  2. 定量的な差分(X%向上、Yコスト削減、Z倍の処理速度など)
  3. 数値の根拠(試験データ・特許公報・公設試連携実績・学会論文など)

根拠の調達方法は複数ある。自社の試作品試験データ(公設試での測定結果が最強)、競合他社の特許公報から読み取れる性能数値、業界団体の公開資料、学会論文のベンチマーク値。これらを組み合わせて「他社はA、自社ではB、差分はC%」という構造を作る。

公設試と連携している場合は試験計画書・実測値の写しを添付すると、審査員の信頼度が大幅に上がる。「研究開発体制の適切性」の審査項目では「各機関の役割分担が具体的かつ適切であるか」が問われており、公設試連携の具体性が技術面評価に直結する構造になっている。

チェックポイント②
「業界初」「革新的」という表現の直後に「具体的な比較対象+定量差分+根拠(試験データ・特許・論文)」の3点セットが続いているか?数字がひとつもない技術優位性欄は要注意。

パターン③:研究体制図に自社研究員を書いているのに人件費が補助対象外→経費計画と矛盾する

よくある失敗パターン

研究体制図に「研究統括:田中部長(博士号)」「研究担当:鈴木課長(材料工学専攻)」と自社研究員を書いておきながら、経費計画の人件費欄に「研究員2名×月40万円×10か月=800万円」と計上しているケース。

これは、ものづくり補助金(新事業進出・ものづくり補助金も同様)では補助対象外になる。ものづくり補助金は原則として自社従業員の人件費は補助対象外。外注先・委託先・公設試研究員への支払いのみが経費として認められる。

なぜこのミスが起きるか

Go-Tech事業では自社研究員の人件費が補助対象になる。この経験を持ったまま、ものづくり補助金の申請書を書くと混同が発生する。研究開発系補助金でも制度によって人件費の扱いがまったく異なるため、公募要領の「補助対象経費」ページを逐条確認しないと足をすくわれる。

体制図と経費計画が噛み合っていない申請書は、審査員から「研究は誰がやるのか?外注先の記載がなく、自社人件費も対象外なら実施体制が成立しない」という疑問を持たれる。これは採点の大幅減点につながる。

正しい体制・経費の設計

ものづくり補助金の革新的新製品・サービス枠で研究体制を組む場合の基本設計:

役割 補助対象経費区分 注意点
自社研究員(社員) 対象外 体制図に書くのはOK。経費計上は不可
外注研究会社・フリーランス研究者 外注費(補助対象経費合計の50%以下) 事前の計画変更承認申請が必要な場合あり
公設試(工業技術センター等) 外注費または委託費 連携協定書・実施計画書を事前に締結
大学・研究機関 外注費または委託費 産学連携協定が必要なケースあり

体制図に自社研究員を書く場合は「研究統括・管理(補助事業費計上なし)」と明記する。一方で外注研究者・公設試との役割分担を具体的に記述し、「誰がどの研究フェーズを担当し、その費用はどの経費区分に計上されるか」を一目で見えるようにする。

体制図→研究計画書→経費計画の3点の整合性が取れていない申請書は、審査員に「この計画は実施体制が成立しない」と判断される。

チェックポイント③
体制図に書いた人員のうち、自社従業員の人件費を経費計画に計上していないか?外注先・公設試との役割が「月別マイルストーン」と対応しているか?

3パターンを同時に解消する「申請書レビュー3ステップ」

書面審査を通過するための申請書は、この3点を順番に確認するだけで精度が大きく上がる。

ステップ1:マイルストーン→研究体制→経費計画を「紐づけ確認」する

月別マイルストーンの各フェーズに「誰(外注先・公設試)が担当し、経費はいくら計上されているか」を1枚の対応表にまとめる。この表でマイルストーンと体制と経費が連動していれば審査員に伝わる。テンプレで時短するなら、この3点対応表を先に作り、それに合わせて文章を書くと整合性が崩れにくい。

ステップ2:技術的優位性欄の「業界初」「他社にない」を全部洗い出す

事業計画書の中から主観的な優位性の表現を全部ピックアップし、それぞれに「比較対象+定量差分+根拠」の3点を追記できるか確認する。追記できないものは削除か「試験で確認予定」として計画に組み込む。

ステップ3:10か月の実施期間に設備調達期間を入れてシミュレーション

導入予定の研究設備のメーカーに「概算納期」を事前に問い合わせる。特注品は3〜6か月かかることが多い。その納期を第1か月から入れ込み、実質的な研究開始月から逆算してマイルストーンを組み直す。

逆算スケジュール:10月30日締切から今週やること

時期 やること 確認ポイント
8月末〜9月上旬 設備メーカーへの納期問い合わせ・公設試への連絡 実施期間10か月内に設備が届くか
9月上旬〜中旬 月別マイルストーン(3点セット)の作成 数値目標・判定基準・未達時対応が各フェーズに入っているか
9月中旬 技術的優位性比較表の作成(競合製品・特許公報調査) 定量差分と根拠(試験データ・特許公報等)が揃っているか
9月下旬 体制図・研究計画・経費計画の3点整合確認 自社従業員の人件費が経費計画に混入していないか
10月上旬〜中旬 認定支援機関・金融機関の確認書取得 金融機関確認書は取得に1〜2週間かかる
10月27日(月) 社内締切(jGrants提出の3日前を目安) PDF容量10MB以下・GビズIDプライムでログイン確認

よくある質問(FAQ)

Q1:月別マイルストーンは公募要領指定の書式がありますか?

A:第1回公募要領では様式は任意(自由形式)で、事業計画書内に記載することが求められています。ただし「実施期間内に各工程の目標を具体的に示すこと」という審査基準がある以上、月別・フェーズ別に達成基準を明示した表形式が実務的に最も評価されやすいです。

Q2:競合製品の性能データが非公開の場合、技術的優位性をどう示せばいいですか?

A:競合他社の特許公報(J-PlatPatで無料検索可能)に記載された性能値・材料組成が使えます。また、業界団体の白書・学術論文のベンチマーク値、または公設試での既存品の測定結果(比較試験として実施)も根拠として有効です。「競合のデータが取れない」ことを理由に数値なしで書くと審査で不利になるため、公開情報から根拠を組み立てる工夫が必要です。

Q3:自社研究員の人件費がまったく出ないなら、研究開発コストはどう賄えばいいですか?

A:ものづくり補助金では自社研究員の人件費は補助事業費として計上できませんが、補助事業に関与していること自体は問題ありません。補助金でカバーできる経費は外注費・機械装置費・知財費等に集中し、自社人件費は経営の通常コストとして捉えることが前提です。研究員を外部調達する設計(外注研究者・大学との共同研究契約等)に組み替えることも選択肢です。

Q4:Go-Tech事業と比べて、革新的新製品・サービス枠の技術面審査の違いは何ですか?

A:Go-Tech事業は「中堅・中小企業等への波及効果」という政策目的があり、公設試との連携体制や経営デザインシートが審査の柱になります。一方、新事業進出・ものづくり補助金の革新的新製品枠は「事業化(付加価値額4.0%/年の達成)」への接続が技術面審査と並んで重視されます。TRL6〜9段階で開発から事業化へのシナリオが描けることが前提で、研究フェーズだけが長い計画は事業化面で減点されやすいです。

Q5:書面審査を通過した後、口頭審査でも同じ内容を説明するのですか?

A:基本的には書面の内容をベースに口頭で説明します。審査員から「この月別マイルストーンの数値根拠は何ですか?」「競合との差分X%の測定方法は?」といった深掘り質問が来ることを想定し、書面に書いた数値・根拠について自分自身が30秒で説明できる状態にしておくことが重要です。書面で根拠が薄い部分は口頭審査でも詰められるため、書面の時点で数値根拠を固めておくことが口頭審査対策にもなります。

参考リンク