「資本金1億円以下、従業員も150人、どう見ても中小企業やんか。なんで対象外やねん——」

Go-Tech事業の採択通知が届いてから2週間後、交付申請の審査で「みなし大企業に該当するため補助対象外」という通知が来た経営者の声を、私は直接聞いたことがある。公募要領の序盤にある「補助対象者の除外要件」を見落としたことが原因だ。

Go-Tech事業も、新事業進出・ものづくり補助金も、補助対象は「中小企業者」に限定されている。この「中小企業者」には、資本金・従業員数の基準だけでなく、出資構造・役員構成・グループ連結による排除規定がある。これが通称「みなし大企業」と呼ばれるルールだ。

研究開発型の中小企業、特に大企業グループの子会社やVC出資を受けたスタートアップに多い。申請書を書き上げた後に発覚すると、交付決定取消し・計画書の全面書き直しというダブルの打撃を食らう。今回はこのパターンを3つに分けて解説する。

「みなし大企業」の定義:3つの排除規定

中小企業基本法が定める中小企業者の基準(製造業:資本金3億円以下かつ従業員300人以下など)を満たしていても、以下の3つのいずれかに該当すると「みなし大企業」として扱われ、補助対象外となる。

  • 【出資比率規定】発行済株式の総数または出資金総額の2分の1以上を、非中小企業者(大企業1社)が保有している
  • 【複数出資規定】発行済株式の3分の2以上を、複数の非中小企業者が合計で保有している
  • 【役員規定】大企業の役員または職員が、自社の役員総数の2分の1以上を占めている

Go-Tech事業の公募要領では「中堅企業等」という区分もあり、補助率が異なる。申請前に自社の区分を正確に把握することが重要だ。ものづくり補助金も同様の排除規定を持つ。

【パターン1】VC・事業会社からの出資で「発行済株式の1/2以上」が大企業保有になる

研究開発型スタートアップが最も陥りやすいパターンだ。

シリーズBまでに大企業の事業会社(CVC:コーポレートベンチャーキャピタル)から第三者割当増資を受けて50%超の株主になったとたん、その企業は「みなし大企業」に切り替わる。

よくある誤解①:「CVCは投資ファンドだから大企業扱いにならない」
CVCが大企業の連結子会社や関連会社であれば、その出資は「非中小企業者による出資」と判定される。補助金申請時に株主名簿の提出と各株主の中小企業者証明が求められるため、CVCの親会社が上場大企業であれば即アウトだ。

よくある誤解②:「新株予約権(ストックオプション)は保有比率に含まれない」
未行使の新株予約権は保有比率に含まれないが、権利行使されると株式に転換される。シリーズC以降で権利行使が進んでいる場合は、行使後の実質保有比率を常に把握しておく必要がある。

私が福岡でコンサルしたケース:素材系ベンチャー(従業員28名・資本金8,000万円)がGo-Tech事業を申請した際、大手化学メーカーが第三者割当増資を引き受けて52%の株主になっていた。公募要領の「みなし大企業」チェックを見落とし、採択通知の2週間後に交付申請審査で発覚。交付決定が取り消され、事業スケジュールが1年ずれ込んだ。

この種のミスは、M&AやラウンドファイナンスのDDを担当した顧問弁護士・顧問会計士が補助金の専門家でない場合に起きやすい。補助金申請時には必ず補助金専門家と株主構成を再確認してほしい。

【パターン2】親会社・グループ会社からの役員派遣で「役員の過半数が大企業出身」になる

出資比率が2分の1未満でも、役員構成の問題でみなし大企業の条件を満たすことがある。子会社・関連会社として大企業グループに属し、取締役の過半数を親会社から派遣されているケースだ。

判定の基準:「役員」の範囲
取締役・監査役・執行役員が対象となる(会社法上の役員)。親会社から取締役3名が派遣されており社内取締役が2名の計5名構成であれば、3/5 = 60%で基準を超える。

よくある誤解③:「社外取締役だから派遣役員ではない」
独立した社外取締役ではなく、グループ会社の従業員が兼務で社外取締役に就いている場合は「大企業の役員・職員」扱いとなる。上場大企業の部長クラスが子会社の社外取締役を兼務するケースで発生しやすい。

私が経験したケース:MBOによって独立したはずの製造業の会社が、前親会社から「経営支援として」2名の取締役を残したまま補助金申請した。役員5名中3名が前親会社出身でみなし大企業と判定された。幸い交付申請前に気づけたが、採択から日数が経過していたため研究開発のスタートが3ヵ月遅れた。

対策:申請前に登記上の役員一覧を取得し、各役員の本業の勤務先・雇用関係を確認する。特に直近1年以内に組織再編・M&Aがあった企業は役員構成が変わっていることが多い。

【パターン3】グループ連結で合算すると従業員数・資本金が中小企業の定義を超過する

法人単体では資本金・従業員数が基準以内でも、関連会社を含む企業グループ全体で見ると超過するパターンだ。中小企業基本法では一定の資本関係にある企業グループを連結して中小企業者かどうかを判定することがある。Go-Tech事業・ものづくり補助金の公募要領でも「資本関係のある企業の合計」を確認するよう求めている。

判定の対象:申請企業が他社の資本の1/2超を保有する子会社、または申請企業の資本の1/2超を他社が保有する親会社・兄弟会社が対象。

よくある誤解④:「登記上の資本金だけ見ていた」
持株会社(ホールディングス)の傘下に複数の事業子会社がある場合、各子会社単体では基準内でも持株会社グループ合計の連結従業員数が基準を超えることがある。製造業では300人が上限のため、グループ合計で301人になると全子会社がみなし大企業の対象となり得る。

よくある誤解⑤:「合同会社(LLC)や任意組合は連結対象外」
出資関係があれば法人形態にかかわらず判定対象となる。事業再編でLLCを活用しているグループ企業は特に注意が必要だ。

実際のケース:地方の製造業グループ(持株会社+4事業子会社)の一子会社がものづくり補助金に申請した。子会社単体では従業員65名・資本金5,000万円で製造業の基準内だったが、持株会社グループ全体では従業員が合計320名。300名を超えたためみなし大企業と判定された。

申請前の「みなし大企業」セルフチェックリスト

  1. 株主名簿を取り出し、発行済株式の50%超を1社の非中小企業者が保有していないか確認する
  2. 複数の大企業株主の合計保有比率が3分の2を超えていないか確認する
  3. 登記簿の役員欄を確認し、大企業グループ所属の役員が役員総数の過半数を占めていないか確認する
  4. 子会社・親会社・兄弟会社を含めたグループ全体の従業員数・資本金を合算する
  5. 直近1年以内にM&A・株式移転・第三者割当増資があった場合は特に再確認する

「グレーかもしれない」と感じたら、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)または中小企業庁の相談窓口に事前確認を取ることを強く勧める。採択後の取消しは企業のブランドにも大きなダメージを与える。

よくある質問(FAQ)

Q1. VC出資を受けているスタートアップでも、出資比率が50%未満ならGo-Tech事業に申請できますか?

A. 出資比率の要件だけ見れば申請可能です。ただし、複数のVC・投資家の合計保有比率が3分の2を超えていないかも確認してください。また、VCの親会社が上場大企業の場合、その出資が「非中小企業者による出資」に該当するかを個別に確認する必要があります。申請前に認定支援機関へ相談することを推奨します。

Q2. みなし大企業の判定基準はGo-Tech事業とものづくり補助金で同じですか?

A. 基本的な排除規定(出資比率1/2・役員比率1/2)は共通ですが、細部の運用は各事業の公募要領で確認が必要です。Go-Tech事業は「中堅企業等」区分が存在し、みなし大企業でも補助率を下げて申請できるケースがある一方、ものづくり補助金はみなし大企業は一律対象外です。最新の公募要領を必ず確認してください。

Q3. 申請後に組織再編で「みなし大企業」に該当することになった場合どうなりますか?

A. 採択後・交付申請前であれば申請を取り下げることになります。交付決定後に該当した場合は、交付決定の取消しと補助金の返還義務が生じます。補助事業期間中に資本構成や役員構成が変わる可能性がある場合は、事前に補助金の事務局に相談することが不可欠です。

Q4. 親会社が「中小企業者」の場合でも、グループ連結の従業員数が合算されますか?

A. みなし大企業の排除規定は「非中小企業者(大企業)が保有」している場合に適用されます。親会社が中小企業者であれば、原則として親会社の出資がある事実だけでは排除されません。ただし、グループ全体として中小企業の規模要件(従業員数・資本金)を超えていないかを確認する必要はあります。

Q5. みなし大企業に該当する可能性があるがどこに事前相談すれば良いですか?

A. Go-Tech事業は所管の中小企業基盤整備機構または事業実施機関、ものづくり補助金は全国中小企業団体中央会または各都道府県の中小企業団体中央会が相談窓口です。認定経営革新等支援機関(税理士・中小企業診断士等)に相談するのも有効です。

参考文献・情報源

  • 中小企業庁「Go-Tech事業(中堅・中小企業等への波及効果が高い研究開発)」公募要領
  • ものづくり補助金総合サイト「新事業進出・ものづくり補助金」公募要領(第1回公募)
  • 中小企業庁「中小企業の定義について」(みなし大企業の排除要件を含む)