2026年8月31日から受付が始まる新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第1回公募、締切10月30日)。革新的新製品・サービス枠を狙っている研究開発型の中小企業に、今すぐ確認してほしいことがある。
旧ものづくり補助金との最大の違いの1つが「口頭審査」の存在だ。書面審査に加え、必要に応じて実施される口頭審査で、自社の事業計画を説明できなければ採択は遠のく。しかも公募要領には「第三者に過度に依存している事業ではないか」が明文で審査項目に入っている。
地場ベンチャー仲間の勉強会にも、これ関連の相談が8月に入って急に増えた。「計画書を認定支援機関に任せたら口頭審査があると知らなかった」「審査員に数値の根拠を聞かれて答えられなかった」——同じパターンで詰まっている。公募要領を3回読んでみたら、不採択になる構造が3つに集約されていたので書いておく。
なぜ口頭審査が「革新的新製品枠」の最大の関門になったのか
旧ものづくり補助金(第23次まで)では、認定経営革新等支援機関の確認書が必須書類だった。これが「外部の支援機関に計画書をまかせてOK」という誤解を生んだ。実際、支援機関に計画書の作成を依頼するのが業界の慣習になっていた部分がある。
新事業進出・ものづくり補助金の第1回公募要領では、この確認書の添付義務が廃止された。一見ハードルが下がったように見えるが、同時に「事業計画書は申請者自身が主体的に作成し、内容を説明できること」が審査の文脈に組み込まれた。
書面審査に加えて実施される口頭審査では、外部有識者からなる審査委員会が直接申請者に質問する。書面で整った計画書を出していても、「この技術的到達目標の根拠を説明してください」と問われた瞬間に、外部丸投げ型の申請は崩壊する。機械装置・システム構築費の計上が革新的新製品枠では実質必須という経費要件とも相まって、「口頭審査対策ができていない=書面の質が高くても落ちる」という構造が生まれている。
パターン1:事業計画書を外部丸投げして口頭審査で発覚するケース
うちで実際に取った時の話なんですけど、初回の申請では認定支援機関の先生にほぼ計画書を作ってもらったことがあった。当時は「プロに任せれば採択率が上がる」と思っていたが、今の制度だったら口頭審査の時点で詰んでいたと思う。
新制度で最多の失敗パターンがこれだ。士業や補助金コンサルに計画書を「作成」してもらい、内容を自分で把握できていない状態で審査を受けるケース。口頭審査での典型的なやり取りはこうなる。
審査員「御社の革新的製品のコア技術について、競合との差別化ポイントをご説明ください」→申請者「えーと、計画書に書いてあります通りで……」
審査員「補助事業期間10か月で達成する技術的到達目標の数値根拠はどこから?」→申請者「コンサルに計算してもらったので詳細は……」
この段階で審査員の評価は一気に下がる。公募要領の審査項目には「申請者自身が当該補助事業を主体的に遂行できるか」が含まれており、第三者依存が疑われると書面評価の高さをひっくり返されることがある。
対策は明快だ。支援機関の役割を「レビュー」に限定し、計画書の主文は必ず自社で書く。テンプレで時短するのは全然OKで、むしろ技術的到達目標のフォーマットや付加価値額シミュレーションシートは事前に整えておくべきだ。ただし穴埋めは自分でやる。口頭審査の場では「自分の言葉で話せること」が最低条件になっている。
パターン2:技術的到達目標の数値根拠を口頭で説明できないケース
革新的新製品・サービス枠の審査は技術面の比重が大きい。問題は、書面では「〇〇性能を30%向上させる」と書けていても、口頭審査でその根拠を問われると答えられない申請者が多いことだ。
審査員が聞くのは大体この3点に集約される。
- 現状値(ベースライン)はどこで確認した数値か
- 30%向上の根拠はどんな試験データ・先行研究に基づくか
- 機械装置・システム構築費の計上が研究開発のどの工程に対応するか
特に機械装置費については、補助対象経費として計上が実質必須という構造上、「その設備がなぜ革新的新製品の開発に必要か」の技術的根拠を自分の言葉で語れないと、経費計画全体の信頼性が崩れる。
公募要領を3回読んでみたら、技術的到達目標の記載要件として「数値指標・測定方法・達成水準の根拠」の3点セットが求められていることがわかる。これは書面でも口頭でも同じ構造で説明できる必要がある。書面で書けて口頭で答えられないということは、実質的に理解できていないのと同じだ。
口頭審査の想定問答を3時間以上かけて準備することを勧めている。具体的には以下を一枚のA4シートに凝縮しておく。
- 技術的到達目標の根拠データ(現状値・目標値・測定方法・一次情報の出典)
- 機械装置・システム構築費の計上と研究開発工程の対応図
- 業界標準値や競合比較データ(公開論文・試験機関データ等)
「口頭で説明できない内容は書面でも弱い」というのが審査員の目線だと思っておいた方がいい。
パターン3:実施期間10か月と付加価値額4.0%の数値連動を口頭で説明できないケース
旧ものづくり補助金(一般型)の実施期間は12か月だった。新制度では10か月に短縮されている。この2か月の差は特注設備の導入を伴う研究開発には致命的に響くことがある。
特注機械の納期が3〜6か月かかるとすると、実質的な研究開発期間は4〜7か月しかない。採択から交付決定まで2〜3か月(10月採択→交付決定12月〜1月)もかかるため、申請時点から研究着手まで4〜5か月待つ構造になっている。
口頭審査では「10か月の実施期間で付加価値額4.0%達成に向けた具体的な事業化計画を説明してください」と聞かれることがある。書面に「3年間で達成」とざっくり書いてあっても、審査員は初年度(10か月)の事業化の道筋を具体的に問いてくる。
付加価値額4.0%というのは年平均の数字で、3年計画なら約12.5%の成長が必要な複利計算だ。初年度の売上がほぼゼロに近い研究開発フェーズでは、2年目・3年目で急速に伸ばす計画を立てないと数式が成立しない。さらに付加価値額と賃上げ要件(年平均3.5%)は連動しているため、「付加価値額4.0%×賃上げ3.5%×実施期間10か月」の三角チェックを事前に完了しておかないと、口頭で突っ込まれた時に整合性が崩れる。
対策は交付決定から逆算した開発スケジュールを月単位で準備し、付加価値額達成のPLシミュレーションを年度別に揃えておくことだ。口頭審査は「数字を自分の言葉で説明できる申請者」を選ぶ場でもある。
10月30日締切から逆算した口頭審査対策スケジュール
8月31日の申請受付開始から10月30日の締切まで約2か月。この期間で口頭審査まで含めた準備を済ませるための逆算スケジュールを示す。
| 時期 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 8月中旬(今すぐ) | GビズIDプライム取得 | 取得に1〜2週間かかるため8月17日頃が実質デッドライン |
| 8月下旬 | 技術的到達目標の3点セット完成 | 数値指標・測定方法・根拠データを一次情報で揃える |
| 9月上旬 | 付加価値額・賃上げの三角チェック完成 | 売上見込みから付加価値額4.0%・賃上げ3.5%・広告宣伝費上限を連動確認 |
| 9月中旬 | 事業計画書の自社作成完了 | 支援機関のレビューはOK。主文は自社で書く |
| 9月下旬〜10月 | 口頭審査想定問答の準備 | 技術面・事業化面・経費計画の各領域で回答を準備 |
| 10月30日 | 電子申請締切 | GビズIDプライムでの電子申請が必須 |
口頭審査の実施日程は採択後に通知される。採択が12月頃とすると口頭審査は1月前後になる可能性があり、書面を出して終わりではない設計を今から頭に入れておいてほしい。
FAQ
口頭審査は全員が受けるのですか?
公募要領では「必要に応じて実施」という記載になっており、全員が対象ではありません。ただし革新的新製品・サービス枠は技術面の審査比重が高く、書面審査で疑義が生じた場合に口頭審査が実施されるリスクがあります。「口頭審査があっても説明できる状態」を前提に準備しておくのが安全です。
認定経営革新等支援機関に計画書作成を依頼してはいけませんか?
依頼自体は問題ありません。公募要領では「助言を受けること」は認められています。ただし「過度な依存」が審査で問われるため、計画書の主文は申請者自身が書き、内容を自分の言葉で説明できる状態にしておく必要があります。丸投げして内容を把握していない状態は口頭審査でリスクになります。
実施期間10か月はいつから計算されますか?
補助事業の実施期間は交付決定日の翌日から10か月です。採択から交付決定まで2〜3か月かかるため、10月30日締切で申請すると、採択が12月〜1月、交付決定が2月〜3月、実施期間開始が3月〜4月、終了が翌年1月〜2月頃になります。特注設備の発注から納入まで3〜6か月かかる場合、実質的な研究着手期間が非常に短くなるため、事前に設備メーカーへの照会を済ませておくことが重要です。
付加価値額4.0%は旧ものづくり補助金と何が違いますか?
旧ものづくり補助金(第23次まで)の要件は年平均3.0%でした。新制度では4.0%に引き上げられており、3年計画で約12.5%の成長が必要です(旧制度は約9.3%)。研究開発フェーズで初年度の売上がゼロに近い場合、2年目・3年目で急速に伸ばす計画が必要になります。旧制度の計画書テンプレートをそのまま流用すると基本要件の段階で問題が生じるため、必ず付加価値額シミュレーションを新制度ベースで作り直してください。
口頭審査ではどんな質問が来ますか?
公式の想定問答リストはありませんが、過去の類似制度の実例から推測すると、「①技術的到達目標の数値根拠(現状値・目標値・測定方法)」「②機械装置・システム構築費が研究開発のどの工程に使われるか」「③実施期間10か月で付加価値額4.0%に向けた事業化計画」「④賃上げ3.5%を達成するための人員計画と財源」「⑤外部委託比率とその必要性」の5領域から来ることが多いです。各領域について2分以内で答えられるよう準備しておくことを勧めます。
参考文献
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイト — 中小企業基盤整備機構
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領を公開【申請受付期間:8/31〜9/30】 — 経済産業省中小企業庁 ミラサポplus
- 新事業進出・ものづくり補助金のご案内 — 補助金活用ナビ(中小機構)





