2026年8月31日から新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第1回公募)の申請受付が始まります。10月30日締切まで約2か月、革新的新製品・サービス枠で申請を検討している研究開発型中小企業の経営者から「経費計画、どう組めばいいですか」という相談が福岡でも増えてきました。

うちで実際に取った時の話なんですけど、最初の申請では経費計画の「外注費の上限」を完全に見落としていました。朝カフェで公募要領を何度も読んでいたのに、外注費に関する制約がページをまたいで書かれていて、浅い読み込みでは気づけない構造になっているんですよ。今回は「経費設計の段階」でハマる3つのパターンをまとめます。

旧ものづくり補助金(第23次)の経験者も要注意です。旧制度との連続性がある部分とそうでない部分があり、「どうせ同じ」という思い込みが経費計画を崩壊させます。

パターン1:外注費50%上限を知らずに研究の大半を外部委託する計画を立てて、交付申請後に経費が対象外になる

どんなパターンか

革新的新製品・サービス枠で最も多い相談が「自社には研究設備がないので、試作や測定はすべて外部に委託したい」というケースです。研究開発型の中小企業は自社の研究員人件費が補助対象外(技術導入費と外注費は別の話です)なので、どうしても外部委託費用が膨らみます。

ここで発生するのが外注費の上限規制です。

外注費は補助対象経費の合計(税抜)の1/2(50%)を超えることができません。

例えば、機械装置費500万円・外注費600万円・知財費100万円で合計1,200万円の経費計画を立てたとします。外注費600万円は補助対象経費合計1,200万円の50%にちょうど到達します。ここはギリギリOKですが、外注費を700万円にしようとすると、超過した100万円分は補助対象外です。

研究開発型中小企業がハマりやすい理由

  • 公設試への研究委託費:大学や都道府県の工業技術センターへの委託費は外注費として計上します
  • 受託研究・共同研究の業務委託分:外部研究機関への研究委託も外注費に算入されます
  • 外部設計・試験委託:設計図面の作成や材料評価を外部に依頼すると外注費扱いになります

これらが重なると50%上限はあっという間に埋まります。特に「自社に試験設備がない」「大学の分析装置を借りる」という研究開発スタイルの中小企業は要注意です。

対策

外注費の枠を確保するために、必要な試験・測定設備を機械装置費で自社購入することを検討してください。機械装置費には50%上限がありません。「外注で安く済ませよう」という発想が、かえって外注費全体の使える枠を減らします(後述のパターン3とも連動します)。

パターン2:知財費(特許出願)を「補助事業実施期間外」で計画して費用が対象外になる

どんなパターンか

革新的新製品・サービス枠では、特許出願費・弁理士費用・海外特許取得費用などを知的財産権等関連経費として補助対象に計上できます。しかしここには「補助事業実施期間内に出願・手続きが完了すること」という時間的な制約があります。

第1回公募の審査スケジュールを考えると:

時期 スケジュール
2026年8月31日〜10月30日 申請受付期間
2026年12月ごろ(見込み) 採択通知
2027年2〜3月ごろ 交付決定(採択から2〜3か月後)
実施期間10か月後(2028年1月ごろ) 補助事業期間終了

特許出願を補助対象にしたいなら、2028年1月ごろの実施期間終了日までに出願が完了していなければなりません。これが実施期間10か月(旧制度の12か月より2か月短い)の厳しさです。特注設備の納期(3〜6か月)を考えると、研究開発フェーズは実質的に5〜7か月しかありません。

よくある誤解

誤解1:「先行技術調査費(特許調査費)も知財費として計上できる」

先行技術調査(J-PlatPatを使った調査や弁理士への依頼)は補助事業の前に行うことが多く、補助事業期間前の費用は対象外です。また、技術調査だけを目的とした費用は知財費に含まれない場合があります。出願に直接紐づく弁理士費用のみが対象になるケースが多いので、公募要領の定義ページを必ず確認してください。

誤解2:「PCT国際出願は実施期間内にすべて完了させる必要がある」

PCT国際出願は国内移行手続きまで含めると数年かかります。実施期間内に「受理局への提出(PCT出願の受理)」が完了していれば、その費用が対象になる場合があります。ただし各国移行費用は別途確認が必要です。事前に事務局(中小機構)に相談することを強くお勧めします。

知財費の逆算スケジュール

特許出願を知財費として計上したいなら、「交付決定から何か月後に出願を完了させるか」を申請書段階で設計してください。研究開発フェーズ→試作→評価→特許明細書作成→出願という流れを10か月に収めるのは相当タイトです。公募要領を3回読んでみたら「知財費の項目は補助事業期間と連動している」と明記されているページを発見できます。1回目の読み込みでは見落としがちな箇所です。弁理士との事前相談を申請書提出前に済ませておくのがこのパターンへの唯一の対策です。

パターン3:「外注か設備購入か」の判断を誤り、外注費枠が圧迫されて研究委託費が対象外になる

どんなパターンか

試験・検査・材料評価を「自社設備で行うか」「外部機関に委託するか」は、補助金の経費計画では非常に重要な判断です。

方法 経費区分 上限
外部機関に試験・検査を委託する 外注費 補助対象経費の50%以下
自社で試験設備を購入して実施する 機械装置・システム構築費 50%上限なし

「どうせ数回しか使わないから外注の方が安い」という発想で試験・検査を全部外注すると、外注費の50%枠を食いつぶしてしまいます。そして残された外注費の枠に、本当に必要な「公設試への研究開発委託費」や「外部設計費」が収まらなくなります。

具体的な計算例

当初の経費計画(外注費が圧迫されているケース)

経費区分 金額(税抜)
機械装置・システム構築費 0円
外注費(材料評価・試験委託×3社) 200万円
外注費(公設試への研究委託) 500万円
知財費 80万円
合計 780万円

外注費合計700万円 ÷ 合計780万円 ≒ 89.7%。50%上限(390万円)を大幅に超えており、超過した310万円は補助対象外です。

修正後の経費計画(試験装置を自社購入に切り替え)

経費区分 金額(税抜)
機械装置費(試験・評価装置を自社購入) 300万円
外注費(公設試への研究委託) 450万円
知財費 80万円
合計 830万円

外注費450万円 ÷ 合計830万円 ≒ 54.2%。まだ50%を若干超えていますが、機械装置費をあと数十万円増やすか外注費を減らすかで50%以内に収められます。機械装置費を自社購入に切り替えたことで、補助対象経費の総額も増えて補助金額が上がるという副次効果もあります。

機械装置費ゼロは審査上も不利

革新的新製品・サービス枠では「機械装置・システム構築費の計上が実質必須」です。機械装置費ゼロの経費計画は、審査員に「本当に研究開発をする体制があるのか」と疑問を持たれます。パターン3の「外注費圧迫問題」を解決しながら機械装置費を組み込む——これが正しい経費設計の方向性です。

3つのパターンを踏まえた経費設計の逆算スケジュール

時期 アクション
今すぐ(8月中旬〜) 外注予定先のリストアップ&概算見積もり取得。外注費合計の試算を開始する
8月下旬 外注費÷補助対象経費合計を計算。50%超なら機械装置費への振り替えを検討する
9月上旬 特許出願スケジュールを弁理士と確認。「交付決定から何か月後に出願完了できるか」を数値で固める
9月中旬〜下旬 経費計画を確定。外注費50%チェック・知財費計上期間チェック・機械装置費組み込みの3軸で確認する
10月30日 申請締切

よくある質問(FAQ)

Q1. 外注費の50%上限は税込み・税抜きどちらで計算するのですか?

税抜きで計算します。補助対象経費は原則として消費税を除いた金額(税抜)で算定します。「外注費合計(税抜)÷ 補助対象経費合計(税抜)≤ 50%」が要件です。消費税込みで計算すると比率が変わるので、必ず税抜きで確認してください。

Q2. 知財費に上限金額はありますか?

新事業進出・ものづくり補助金では、知的財産権等関連経費の上限について公募要領に規定があります。旧ものづくり補助金では「補助対象経費合計の1/3以下」が多いケースでした。最新の公募要領の経費区分ページを必ず確認してください。制度統合に伴い変更されている可能性があります。

Q3. 自社の研究員の人件費は補助対象になりますか?

新事業進出・ものづくり補助金では、自社従業員の人件費は原則として補助対象外です。Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)では自社研究員の人件費が補助対象になるため、研究フェーズがTRL 4〜6段階であればGo-Tech事業の方が適している場合があります。TRL段階で制度を選び直すことを検討してください。

Q4. 実施期間10か月で特許出願まで本当に間に合いますか?

特注設備の納期(3〜6か月)が必要な場合、研究開発フェーズは実質5〜7か月しかありません。弁理士による明細書作成に1〜2か月かかることを考えると、かなりタイトです。特許出願を知財費に組み込む場合は、申請書段階で弁理士と出願スケジュールを確定し、事業計画書にマイルストーンとして記載することを強くお勧めします。先行技術調査(特許調査)は申請前に完了させておくと明細書作成が早まります。

Q5. Go-Tech事業と比べて外注費・知財費の扱いに違いはありますか?

Go-Tech事業では自社研究員の人件費が補助対象に含まれるため、外注費依存度が下がりやすい構造です。一方でGo-Tech事業は公設試との連携が実質必須で、採択率も約43%(令和8年度)と競争率が高い制度です。研究フェーズがTRL 4〜6(試作・試験段階)であればGo-Tech、TRL 7〜9(量産・事業化段階)であれば新事業進出・ものづくり補助金という使い分けが基本線です。知財費の「補助事業期間内出願」という制約はどちらの制度でも共通しています。

まとめ:申請書提出前の3点チェックリスト

公募要領を3回読んでみたら、経費計画に関する記載が複数ページにまたがって書かれているのがわかります。以下の3点を申請書提出前に必ず確認してください。

  1. 外注費チェック:外注費合計(税抜)÷ 補助対象経費合計(税抜)≤ 50%であること
  2. 知財費チェック:特許出願予定日が実施期間終了日より前であること。先行技術調査費は別途公募要領で対象可否を確認すること
  3. 機械装置費チェック:試験・検査・測定設備を外注費だけで賄おうとしていないか。機械装置費への振り替えで外注費枠を解放できる可能性がある

経費設計は申請書の核心です。文章の完成度を上げてから経費表に着手するのではなく、経費設計を先に固めてから事業計画書の文章を書く順序が、研究開発型中小企業には特に重要です。

参考文献・公式リンク