「研究開発に補助金を使いたいんやけど、SBIRってどこから手をつけたらええの?」
福岡の地場ベンチャー仲間との勉強会で、最近こんな相談が増えてきました。Go-Tech事業(旧サポイン)は以前に記事にしましたが、実はもうひとつ、研究開発型の中小企業やスタートアップに特化した制度があるんです。それがSBIR制度(日本版SBIR)。内閣府が司令塔となって省庁横断で運営しているのに、知名度はまだまだ低い。
で、公募要領を3回読んでみたら、この制度には「連結型」と「一気通貫型」という2つのルートがあって、ここを選び間違えた時点で不採択が確定する構造になっていることに気づきました。今回はこの「選び間違い」を中心に、SBIR制度の申請で中小企業が躓くポイントを整理します。
SBIR制度とは?Go-Tech事業・ものづくり補助金との違い
SBIR制度は、2021年(令和3年)の科学技術・イノベーション創出の活性化法改正で大幅にリニューアルされた、研究開発型スタートアップ等を支援する省庁横断プログラムです。内閣府が全体を統括し、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が執行機関として公募を行います。
| 比較項目 | SBIR制度 | Go-Tech事業 | ものづくり補助金 |
|---|---|---|---|
| 所管 | 内閣府(NEDO執行) | 中小企業庁 | 中小企業庁 |
| 対象 | 研究開発型スタートアップ・中小企業 | 中小企業(共同体必須) | 中小企業(単独可) |
| フェーズ | フェーズ1(PoC/FS)→ フェーズ2(実用化開発) | 最大3年一括 | 単年度 |
| 連携省庁 | 総務省・厚労省・農水省・国交省 等 | なし(中企庁単独) | なし |
| 申請システム | SBIR Portal(e-Rad連携あり) | e-Rad | Jグランツ |
ポイントは、SBIR制度には複数の省庁が「研究開発テーマ(トピック)」を出していること。2026年度の連結型では、総務省(Beyond 5G)、厚生労働省(障害者支援機器)、農林水産省(食品工場スマート化・林業技術)、国土交通省(海事DX)などが参加しています。
最大の落とし穴:「連結型」と「一気通貫型」の選び間違い
SBIR制度で最も重要な分岐点が、「連結型」と「一気通貫型」のどちらで出すかです。
- 一気通貫型:経産省・NEDOがフェーズ1からフェーズ2、さらにその後の支援までを一気通貫で実施。テーマは経産省系の課題が中心。
- 連結型:フェーズ1(PoC・FS)をNEDOが実施し、フェーズ2以降はテーマを出した省庁の指定補助金等へ接続する。つまり、農水省のトピックで採択されたら、フェーズ2は農水省の補助金制度に移行する。
ここで多いのが、自社の研究テーマに合わないルートを選んでしまうパターン。たとえば、食品工場の自動化技術を開発している企業が一気通貫型で申請すると、テーマ適合性で弾かれる。逆に、経産省系のテーマ(例:素材開発、エネルギー関連)なのに連結型の農水省トピックに無理やり寄せると、審査で「トピックとの整合性が低い」と判断されて不採択。
対策:まずSBIR制度特設サイトの公募一覧で、連結型の各省庁トピックを確認する。自社のテーマがどの省庁の政策ニーズに合致するかを見極めてから、ルートを決めてください。
見落としがちな「フェーズ1」の位置づけ
SBIR制度のフェーズ1は、概念実証(PoC)や実現可能性調査(FS)のための段階です。つまり、「もう製品はできていて、量産化したい」という段階の企業にはフェーズ1は向きません。
朝イチでカフェに公募要領を持ち込んで読み込んだところ、フェーズ1の審査基準には「技術的な新規性」「課題解決のアプローチの妥当性」が重視されていて、既存技術の横展開は対象外とされているケースがほとんどでした。
うちで実際に取った時の話なんですけど、経営者仲間に「既に販売している製品の改良版を作りたい」という相談を受けて、SBIR制度ではなくGo-Tech事業を勧めたことがあります。SBIRはあくまで研究開発の初期段階に特化した制度。この棲み分けを理解していないと、どんなに良い技術でも審査で噛み合いません。
省庁横断ゆえの「公募スケジュール」の罠
SBIR制度が他の補助金と決定的に違うのは、省庁ごとに公募タイミングが異なる点です。連結型のフェーズ1はNEDOが一括公募しますが、フェーズ2以降に接続する各省庁の指定補助金は、それぞれ独自のスケジュールで動きます。
2026年度連結型のフェーズ1公募は2026年3月16日〜4月3日正午でした。約2週間半という短期間。テンプレで時短するとしても、研究開発計画書の作成には最低2週間は欲しい。公募開始を知った時点で半分締切が終わっている状態にならないよう、事前の情報収集が不可欠です。
対策:SBIR制度特設サイトでは毎年2月頃に「連結型トピック説明会」が開催されます。2026年度は2月24日に省庁担当者による説明会がありました。この説明会への参加が実質的なスタートラインだと思ってください。
申請システム「SBIR Portal」とe-Radの関係
SBIR推進プログラムの申請は「SBIR Portal」というNEDO独自のシステムから行います。Go-Tech事業で使うe-Radとは別物ですが、e-Radとの連携機能があるため、e-Radの研究者番号が求められる場面があります。
ここで注意したいのが、e-Radの登録に時間がかかる問題。Go-Techの記事でも書きましたが、中小企業がe-Radに新規登録する場合、承認まで1〜2週間かかることがあります。SBIRの公募期間が約2週間半しかないことを考えると、公募開始前にe-Rad登録を完了しておくのが鉄則です。
「指定補助金」を知らないと、フェーズ2で迷子になる
SBIR制度には「特定新技術補助金等」と「指定補助金等」という2種類の概念があります。指定補助金等は、政策ニーズに基づき国が研究開発課題を設定して交付するもので、連結型のフェーズ2以降がまさにこれに該当します。
フェーズ1で採択されても、接続先の指定補助金の公募要件を満たさなければフェーズ2に進めない。たとえば、国交省の海事DXトピックでフェーズ1に採択されても、フェーズ2の国交省補助金に別途申請して採択される必要がある。ここを「フェーズ1に通ればフェーズ2は自動的に進める」と勘違いしている企業が多い。
対策:連結型で申請する場合は、フェーズ1の公募要領だけでなく、接続先となる省庁の指定補助金の公募要領も事前に確認する。フェーズ2の採択要件を逆算して、フェーズ1の研究計画を設計するのが賢い進め方です。
まとめ:SBIRで不採択にならないための3つの鉄則
- 連結型と一気通貫型の違いを理解し、自社テーマに合ったルートを選ぶ(省庁トピック一覧を必ず確認)
- フェーズ1の位置づけ(PoC/FS段階)を正しく把握し、開発段階に合った制度を選ぶ(量産段階ならGo-Tech等を検討)
- 公募開始前にe-Rad登録・トピック説明会参加を済ませ、短い公募期間に備える
FAQ(よくある質問)
Q1. SBIR制度は設立間もないスタートアップでも申請できますか?
はい。SBIR制度は「研究開発型スタートアップ」を主要なターゲットとしており、設立年数の制限は原則ありません。ただし、研究開発の実施体制や技術的な新規性は審査されるため、創業直後でも技術者や研究者がチームにいることが重要です。公募要領の「応募資格」欄を3回読んで確認してください。
Q2. Go-Tech事業とSBIR制度は同時に申請できますか?
制度上、同時申請は可能ですが、同一テーマ・同一経費での重複受給は不可です。研究開発のフェーズが異なるテーマであれば問題ありませんが、審査時に「他の補助金との重複がないか」は確認されます。申請書には他制度の申請状況を正直に記載してください。
Q3. 連結型のフェーズ1に不採択だった場合、一気通貫型に再申請できますか?
公募時期が合えば再申請は可能です。ただし、一気通貫型と連結型では求められるテーマ適合性が異なるため、申請書は一から書き直す必要があります。不採択理由をNEDOに問い合わせて(開示制度あり)、次回に活かすのが王道です。
Q4. 中小企業でなく「中堅企業」でもSBIR制度は使えますか?
SBIR制度は「スタートアップ等」を対象としており、中堅企業単独での申請は原則として対象外です。ただし、スタートアップや中小企業が主体となる共同体の構成員として参画することは可能な場合があります。最新の公募要領で応募資格を確認してください。
参考文献・公式ソース
- SBIR制度 特設サイト(内閣府) — 制度概要・公募一覧・トピック説明会情報
- SBIR Portal(NEDO) — 申請システム・連結型/一気通貫型の公募要領ダウンロード
- SBIR推進プログラム 事業概要(NEDO) — フェーズ構成・支援内容の詳細
- SBIR制度について(内閣府 科学技術・イノベーション) — 指定補助金等の法的根拠・制度改革の経緯




