「研究開発に使える補助金って、ものづくり補助金しかないんですか?」

福岡で経営者仲間と勉強会をやっていると、こういう質問をよくもらいます。実は、中小企業の研究開発を最大3年間・最大9,750万円で支援してくれる制度があるんです。それがGo-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)。旧名「サポイン事業」と言えばピンとくる方もいるかもしれません。

採択率は約50%と、ものづくり補助金よりも高め。でも、公募要領を3回読んでみたら、「これ、知らずに出したら確実に落ちるな」というポイントがゴロゴロ出てきました。朝イチでカフェに公募要領を持ち込んで、3色蛍光ペンで塗り分けた結果を共有します。

そもそもGo-Tech事業とは?ものづくり補助金との違い

Go-Tech事業は、中小企業が大学や公設試験研究機関(公設試)と共同体を組んで行う研究開発を支援する制度です。経済産業省・中小企業庁が所管しています。

ものづくり補助金との最大の違いは、「研究機関との連携」が必須である点。単独では申請できません。また、補助期間も最大3年間と長く、腰を据えた研究開発に向いています。

比較項目Go-Tech事業ものづくり補助金
補助上限最大9,750万円(3年合計)最大5,000万円(単年度)
補助率2/3以内1/2〜2/3
申請要件大学・公設試等と共同体単独申請可
申請システムe-RadJグランツ
採択率目安約50%約40〜50%

落とし穴1:e-Rad登録を甘く見て締切に間に合わない

Go-Tech事業の申請は、他の補助金でよく使う「Jグランツ」ではなく、「e-Rad(府省共通研究開発管理システム)」で行います。ここが最初の罠。

e-Radは研究機関向けのシステムなので、中小企業が初めて使う場合はアカウント登録だけで1〜2週間かかることがあります。うちで実際に取った時の話なんですけど、e-Radの登録申請を出してから承認されるまで10営業日かかりました。締切の3日前に「まだ登録できてない!」となっても手遅れです。

対策:公募開始と同時にe-Rad登録を済ませること。共同体のメンバー(大学・公設試側)がe-Rad登録済みかも早めに確認してください。

落とし穴2:公設試・大学との連携体制が「名義貸し」状態

Go-Tech事業で最も見落とされがちなのが、共同体の実質性です。公募要領には「2者以上で共同体を構成」とありますが、形だけ大学の先生の名前を借りて、実際の研究は自社だけでやる——こういう申請書は審査で見抜かれます。

審査では、各メンバーの役割分担の明確性研究実績の整合性が厳しくチェックされます。公設試の研究員が過去にどんな研究をしてきたか、その専門性が今回の研究テーマと合っているか。ここがズレていると「なぜこの先生と組むのか」が説明できず、不採択になります。

対策:連携先の研究者とは最低3回はミーティングを重ね、研究計画を一緒に練り上げること。公設試なら各都道府県の産業技術センターに相談窓口があります。中小企業基盤整備機構でも無料で申請相談を受け付けています。

落とし穴3:経営デザインシートを「作文」で済ませる

Go-Tech事業の申請書類で最も手強いのが「経営デザインシート」です。これは内閣府が推進する経営計画のフレームワークで、自社の「これまで」と「これから」を1枚のシートに整理するもの。

ここで多くの中小企業が失敗するのは、研究開発の成果が自社の経営にどうつながるかを具体的に書けないこと。「新技術を開発して売上を伸ばす」程度では審査を通りません。

公募要領を3回読んでみたら、経営デザインシートでは「移行戦略」——つまり現状のビジネスモデルから将来のビジネスモデルへどう移行するか——の具体性が求められていることが分かります。技術的な新規性だけでなく、市場ニーズの裏付けや競合分析まで盛り込む必要があります。

対策:テンプレで時短すると効率的です。内閣府が公開している経営デザインシートのテンプレートをベースに、自社の数値データ(売上推移・原価率・市場規模)を埋めていく。1日2日では完成しないので、最低2週間は見積もってください。

落とし穴4:事業化計画の「経済効果」に根拠がない

Go-Tech事業の審査では、研究開発の技術的な新規性だけでなく、「事業化面」も重要な評価ポイントです。具体的には:

  • 研究開発成果が事業化された場合の経済効果の定量化
  • 市場ニーズを捉えているかのエビデンス
  • コスト面での市場導入可能性

「市場規模は〇〇億円です」と書くだけでは不十分。なぜその市場で自社が勝てるのか、既存技術と比べてどこが優位なのか、具体的な数字と根拠で示す必要があります。

創業1年目にIT導入補助金を公募要領の流し読みで申請して不採択になった苦い経験があるんですが、あのとき学んだのは「数字の根拠を出せないなら書かないほうがマシ」ということ。Go-Tech事業ではなおさらです。

対策:業界レポートや特許情報、学会論文を引用して市場ニーズの根拠を明示する。ターゲット顧客へのヒアリング結果も強力なエビデンスになります。

落とし穴5:補助対象経費の計上ルールを見落とす

Go-Tech事業では、中小企業者等が受け取る補助金額が共同体全体の補助金総額の2/3以上でなければなりません。つまり、大学や公設試側の経費が大きすぎると、中小企業側の配分が基準を下回って不適格になります。

また、補助対象経費の区分(原材料費・機械装置費・専門家経費・委託費など)ごとに上限や条件が細かく定められています。特に注意が必要なのは人件費の計上方法。研究開発に従事する社員の人件費は補助対象になりますが、タイムカードや研究日誌による従事時間の証明が求められます。

対策:経費計画は公募要領の「補助対象経費」の章を熟読した上で作成する。不明点があれば、中小企業基盤整備機構の地域本部に事前相談すること。申請後の経費変更は原則認められないため、最初の計画精度が重要です。

Go-Tech事業を活用するためのチェックリスト

ここまでの5つの落とし穴を踏まえて、申請前に確認すべきポイントをまとめます。

  • e-Radのアカウント登録は完了しているか(共同体全メンバー)
  • 連携先の大学・公設試と3回以上の打ち合わせを実施したか
  • 経営デザインシートに移行戦略と定量データを盛り込んだか
  • 事業化計画の経済効果に第三者データの裏付けがあるか
  • 補助対象経費の中小企業配分が全体の2/3以上になっているか
  • 人件費の従事時間を証明する仕組み(研究日誌等)を準備したか

まとめ:Go-Tech事業は「準備の深さ」で勝負が決まる

Go-Tech事業は、中小企業にとって研究開発の大きなチャンスです。最大9,750万円・最長3年間という支援は他の補助金にはない手厚さ。でも、その分だけ申請のハードルも高い。

僕が20件以上の補助金を採択してきて確信しているのは、採択される事業者と不採択になる事業者の差は「公募要領を何回読んだか」に尽きるということ。e-Radの登録、公設試との連携、経営デザインシート、事業化計画、経費計上——どれも公募要領に書いてあるのに、1回読みでは見落とす情報ばかりです。

まずは公募要領をダウンロードして、3色蛍光ペンで塗り分けるところから始めてみてください。きっと「ここ、知らなかったら落ちてたな」というポイントが見つかるはずです。

よくある質問(FAQ)

Q1. Go-Tech事業はどんな業種でも申請できますか?

中小企業者等であれば業種の制限はありませんが、研究テーマが「ものづくり基盤技術」または「サービスの高度化」に該当する必要があります。公募要領に記載された技術分野(精密加工、接合・実装、バイオ、AI・IoT活用等)を確認してください。

Q2. 公設試との連携先はどうやって見つければいいですか?

各都道府県の産業技術センターや工業技術センターが窓口になります。また、中小企業基盤整備機構の各地域本部でも連携先のマッチング相談を無料で受け付けています。Go-Techナビの公式サイトにも相談窓口の情報があります。

Q3. ものづくり補助金とGo-Tech事業は併用できますか?

同一の研究開発テーマ・経費での併用はできません。ただし、Go-Tech事業で基礎的な研究開発を行い、その成果をもとにものづくり補助金で設備導入するという段階的な活用は可能です。時期をずらして計画することが重要です。

Q4. 申請書類の作成にかかる期間はどのくらいですか?

経営デザインシートを含む全書類の作成には、最低でも2〜3ヶ月を見込んでください。特に共同体メンバーとの研究計画のすり合わせに時間がかかります。公募開始前から準備を進めることを強くおすすめします。

Q5. 不採択だった場合、再申請はできますか?

翌年度以降の公募に再申請することは可能です。不採択の場合でも、審査結果のフィードバックが提供されることがあるので、それを踏まえて計画をブラッシュアップしてから再チャレンジしてください。

参考文献

  • 中小企業庁「令和8年度予算 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)公募要領」(2026年2月公開)
  • 経済産業省 関東経済産業局「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」制度概要ページ
  • 中小企業基盤整備機構「Go-Tech事業に関する相談」案内ページ
  • 内閣府 知的財産戦略推進事務局「経営デザインシート」テンプレート・記載ガイド