「IT導入補助金で前にCRM入れたから、今度はAIチャットボットを申請しよう」——こう考えている経営者の方、ちょっと待ってください。2026年度から名称が「デジタル化・AI導入補助金」に変わったこの制度、実は2回目以降の申請には独自の落とし穴があります。

僕は福岡で会社をやっている若林です。自社で補助金を20件以上採択してもらってきた中で、IT導入補助金は3回申請しています。公募要領を3回読んでみたら、2026年版には「2回目申請者」を狙い撃ちにするような審査ルールがしっかり書いてあるんですよね。今日はその話をします。

そもそも「デジタル化・AI導入補助金2026」って何が変わった?

まず前提の整理から。2025年度まで「IT導入補助金」と呼ばれていた制度が、2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」に名称変更されました。運営は引き続き中小企業基盤整備機構(中小機構)です。

名前が変わっただけでしょ? と思うかもしれませんが、公募要領の冒頭にはこう書いてあります。「ITツール導入にとどまらず、より踏み込んだデジタル化の推進及びAIの活用が重要」。つまり、単純なソフト導入ではなく、AIを含めた業務変革を審査で見るという方向に舵を切っています。

通常枠の基本スペック(2026年度)

  • 補助額:5万円〜450万円
  • 補助率:1/2以内(条件を満たせば2/3以内)
  • 対象経費:ソフトウェア、クラウドサービス(最大2年分)、保守・サポート費用、ハードウェア(PC・タブレット等)
  • 1次締切:2026年5月12日(火)17:00

補助率が2/3に上がる条件は、地域別最低賃金未満の従業員が全体の30%以上いる場合です。また、補助額150万円以上の申請では賃上げ要件(給与支給総額を年1.5%以上増加、最低賃金+30円以上)が課されます。

2回目の申請で不採択になる「プロセス重複」とは

ここからが本題です。うちで実際に取った時の話なんですけど、IT導入補助金は申請時に「導入するITツールがどの業務プロセスに対応するか」を選択します。公募要領で定義されているプロセスは以下のようなものです。

  • 顧客対応・販売支援
  • 決済・債権債務・資金回収
  • 供給・在庫・物流
  • 会計・財務・経営
  • 総務・人事・給与・労務・教育訓練
  • 業種固有プロセス

問題は、過去にIT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けたソフトウェアのプロセスと、今回のプロセスが重複した場合です。公募要領にはこう明記されています。

過去に交付決定を受けたソフトウェアのプロセスと、今回導入するソフトウェアのプロセスが重複する場合は減点となり、プロセスが完全に一致する場合は不採択となる。

つまり、前回CRMを入れて「顧客対応・販売支援」で採択された企業が、今回もチャットボットを「顧客対応・販売支援」で申請すると、同じプロセスなので不採択になる可能性が高いわけです。

僕が見た「2回目申請」3つの失敗パターン

パターン1:前回と同じプロセスで別ツールを申請

これが最も多い失敗です。前回「会計・財務・経営」で会計ソフトを入れた企業が、今度は経営ダッシュボードツールを同じプロセスで申請する。ツールは違うのにプロセスが同じなので、完全一致で不採択です。

朝カフェで公募要領を読んでいて気づいたんですが、ここで重要なのは「ツール」ではなく「プロセス」で判定されるという点。別のソフトでも、カバーするプロセスが同じなら重複扱いになります。

パターン2:複数プロセスの「部分重複」を甘く見る

前回2つのプロセスで申請して、今回3つのプロセスで申請。そのうち1つが前回と被っている——この場合は完全一致ではないので不採択にはなりませんが、減点対象になります。

IT導入補助金2025の採択率は40〜50%程度まで下がっているという報告もあります。減点を食らった状態で審査に臨むのは、かなり不利です。

パターン3:IT導入支援事業者任せで自社の過去履歴を確認しない

これは創業1年目にIT導入補助金を流し読みで申請して不採択になった僕自身の反省から言えることなんですが、申請の主体はあくまで自社です。IT導入支援事業者(ベンダー)は申請を手伝ってくれますが、あなたの会社の過去の交付決定履歴まで把握しているとは限りません。

「前に何のプロセスで採択されたか」は、自分でjGrantsの申請履歴を確認するか、過去の交付決定通知書を引っ張り出すしかありません。

2回目申請を通すための3つの対策

対策1:過去の交付決定プロセスを洗い出す

テンプレで時短すると楽なんですが、まずは過去のIT導入補助金の交付決定通知書を探してください。通知書に「対象プロセス」が記載されています。jGrantsの申請履歴からも確認可能です。これを一覧にして、今回の申請で選ぶプロセスと突き合わせます。

対策2:「重複しないプロセス」でツールを選定する

先にプロセスの空きを確認してから、そのプロセスに合うITツールを探す。順番が逆なんです。「このAIツールを入れたい」からスタートすると、プロセス重複に気づくのが申請直前になります。

対策3:IT導入支援事業者に過去履歴を共有する

ベンダーとの初回打ち合わせで、過去の交付決定プロセス一覧を渡してください。まともなIT導入支援事業者であれば、重複を避けたツール提案をしてくれます。逆に、過去履歴を聞いてこないベンダーは要注意です。

2026年度のもう一つの新要件:3年間の事業計画と効果報告

プロセス重複とは別に、2回目申請者にはもう一つハードルがあります。IT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者が2026年度に申請する場合、交付申請時点の翌事業年度以降3年間の事業計画を策定し、実行すること及び事業実施効果の報告を行うことが申請要件に追加されています。

これは「前回の補助金でちゃんと成果が出たのか」を確認するための仕組みです。前回導入したツールの活用状況が芳しくなければ、2回目の申請で不利に働く可能性があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. IT導入補助金2021以前に交付決定を受けた場合もプロセス重複の対象になりますか?

公募要領上、プロセス重複の確認対象はIT導入補助金2022〜2025です。2021年以前の交付決定は対象外ですが、念のため公募要領の最新版で確認してください。制度改定で範囲が広がる可能性もあります。

Q2. プロセスが1つだけ重複している場合、採択される可能性はありますか?

完全一致でなければ「不採択」ではなく「減点」です。ただし、2025年度の採択率が40〜50%まで下がっている中で減点を受けると、採択は厳しくなります。できる限り重複を避けた申請設計が望ましいです。

Q3. IT導入支援事業者を前回と変えれば、プロセス重複は回避できますか?

いいえ。プロセス重複の判定は申請者(補助事業者)単位で行われます。IT導入支援事業者を変えても、あなたの会社の過去の交付決定プロセスとの突き合わせは同じです。

Q4. 補助率が2/3になる条件を具体的に教えてください。

令和6年10月から令和7年9月の間で3か月以上、令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上いる場合に、補助率が1/2から2/3に引き上げられます。該当するかどうかは賃金台帳で確認できます。

Q5. AIチャットボットやAI-OCRなど「AI系ツール」は通常枠で申請できますか?

はい。AI系ツールであっても、IT導入支援事業者が事前にITツールとして登録していれば通常枠で申請可能です。ただし、そのツールが対応するプロセスが過去と重複しないかの確認が最優先です。

参考文献

※本記事は公募要領を元に整理したものであり、個別の申請判断については必ず最新の公募要領および事務局にご確認ください。制度の詳細は変更される場合があります。