「仲介会社はどこも同じでしょう」と言う社長に、わたしはいつも同じことを聞き返す。「その会社は正常化PLを作れますか」と。

M&A仲介会社を選ぶ際、多くの経営者は知名度や担当者の印象で判断する。それ自体は否定しない。ただ、買い手が銀行融資で資金を調達する場合——そしてほとんどのM&Aはそうだ——仲介会社の「質」が融資審査の可否に直結する場面がある。

融資審査の目線で言うと、仲介会社には3つの評価軸がある。費用体系・正常化PL作成力・DD費用の透明性だ。この3点が揃わない仲介会社を選ぶと、意思決定後に銀行融資がつかなくなるリスクがある。

基準1. 費用体系(成功報酬型vs着手金型)とDSCRへの影響

M&A仲介会社の報酬モデルは大きく2種類に分かれる。成功報酬型は成約まで費用が発生しないが、着手金型は着手金・月額リテイナー・デューデリジェンス費用が先行する構造だ。

PLの構造を見ると、着手金型の場合、買い手企業が負担する総費用は成約前から発生し始める。典型的なパターンでは着手金100〜300万円、月額リテイナー30〜50万円が3〜6ヶ月、さらにDD費用が300〜500万円。クロージング前だけで500〜1,000万円が出ていく計算になる。

ここで問題になるのがDSCR(債務償還能力比率)だ。年商3億円・経常利益率4%の製造業を例に取ると、経常利益は1,200万円。減価償却費を200万円と仮定すれば、キャッシュフローは1,400万円。既存の借入返済が年800万円あるとすると、残余キャッシュフローは600万円。この600万円を元手に買収後の新規借入返済を賄う構造になる。

銀行はここを見ている。クロージング直前の現預金残高が、買収後の運転資金を維持できる水準にあるかどうかだ。着手金型で現金が先行流出している場合、この残高が基準を下回ることがある。審査部はそこを必ず確認する。

成功報酬型であれば費用の発生タイミングが後ろにずれるため、クロージング前の現預金は温存される。ただし成約時に一括で大きな費用が発生するため、買収資金の融資枠に仲介手数料分を含めた借入が必要になるケースもある。どちらが有利かはケースバイケースだが、「費用の発生タイミング」と「自社の手元流動性」を照合してから選ぶことが先決だ。

基準2. 正常化PL作成力が融資審査を左右する

M&A審査で銀行が最も重視するのは、買収対象企業の「正常化後の収益力」だ。オーナー企業の決算書には、しばしば経営者個人の費用が混入している。役員報酬の過大計上、親族への業務委託費、不必要な車両費や交際費などがその典型だ。

これらを取り除いた正常化PLが作れなければ、銀行は対象企業の実態キャッシュフローを把握できない。審査が止まる。あるいは保守的な数字でしか評価されない。

融資審査の目線で言うと、優秀な仲介会社は正常化PLを3〜5期分作成し、EBITDAの計算まで落とし込んでくる。銀行はこの資料をそのまま社内稟議に使うことができる。担当者の作業が減り、審査が速く進む。

一方、正常化PLを「売り手が出してきた数字そのまま」で提示してくる仲介会社は危険だ。銀行の審査部は必ずオリジナルの決算書と照合する。その段階で数字が合わなければ追加資料要求が続発し、審査期間が大幅に延びる。最悪の場合、一度出した稟議が否決され再申請になる。

仲介会社を選ぶ際の確認事項として、「正常化PLはどのような項目を調整しますか」という質問を初回面談で投げかけることを勧める。「役員報酬の適正化」「オーナー個人費用の除外」「一時的損益の調整」「関連会社取引の正常化」の4点が即座に出てこない会社は、実力を疑ってよい。

基準3. DD費用の透明性と予算超過リスク

デューデリジェンス費用の不透明さは、M&Aを予算オーバーで頓挫させる主要因のひとつだ。

DDには財務DD・法務DD・ビジネスDDの3種類があり、それぞれ外部の会計事務所・法律事務所・コンサルティング会社に発注される。問題は、これらの費用が仲介会社の見積もりに含まれているのか、別途請求なのかが不明確なケースが多いことだ。

PLの構造を見ると、DD費用の総額は案件規模によって大きく変わる。年商3億円規模の案件で財務DDのみなら300〜500万円が相場だが、法務DDを加えると500〜900万円、ビジネスDDまで実施すると800〜1,500万円に達することもある。予算として組んでいた金額の2倍近くになるケースは珍しくない。

銀行はDD報告書を融資審査資料として活用するため、DDの質にも目を向ける。仲介会社が「安いDD業者」を使った結果、報告書が粗くて融資審査に使えないという事態も起きる。費用だけでなく、どの水準のDDを実施するかも確認すべきポイントだ。

初回面談で確認すべき点は3つある。第1に、見積書にDDの対象項目と費用を明示させること。第2に、追加調査が発生した場合の費用負担ルールを確認すること。第3に、過去に担当したDD報告書のサンプル(匿名化したもの)を提示させること。この3点を要求した際に対応できる会社だけが、費用リスクを管理できていると判断してよい。

銀行は「仲介会社選びの痕跡」を資料から読む

銀行はここを見ている。提出された資料一式が、仲介会社の質を映し出す。

優良な仲介会社が関与した案件の申請資料は、正常化PL・バリュエーション根拠・DDサマリー・エグゼクティブサマリーが整然とセットになっている。銀行の審査担当者は、この資料構成を見た瞬間に「まともな案件だ」と判断する。

逆に、仲介会社が単なる橋渡し役に終わっている案件は、売り手決算書のコピーと簡単な概要書しかない。審査担当者は最初から疑念を持ってかかる。

わたしが担当した案件で、資料の質だけで融資判断のスピードが3ヶ月変わったことがある。内容は同水準だった。違いは仲介会社の資料作成力だった。

融資審査の目線で言うと、仲介会社選びは「自社の利益のため」だけでなく「銀行に伝わる言語で案件を説明できる会社か」で選ぶべきだ。買い手側の銀行融資が前提のM&Aであれば、それは必須条件になる。

よくある質問

Q. 成功報酬型と着手金型、どちらが多いですか?
大手仲介会社(日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ等)は基本的に成功報酬型を採用しています。着手金型はFA(ファイナンシャルアドバイザー)型のブティックや金融機関系に多い傾向があります。費用負担のタイミングを重視するなら、最初から成功報酬型に絞って比較するのが実務的です。
Q. 正常化PLはいつ作成されますか?
通常はDA(基本合意契約)締結後、DDと並行して作成されます。優良な仲介会社では、LOI(意向表明書)提出前の初期段階でも概算の正常化PLを作成し、買い手の融資打診材料として活用します。このタイミングが早い会社ほど、融資審査のスタートも早くなります。
Q. DD費用は買い手負担ですか?売り手負担ですか?
原則として買い手負担です。ただし案件によっては売り手側でセラーズDD(事前調査)を実施し、その費用を売り手が負担するケースもあります。費用負担の合意はDA締結前に明確にしておかないと、後でトラブルになります。
Q. 仲介会社を選んでから銀行に相談する順番はどうすべきですか?
先に仲介会社を選定し、正常化PLの骨子が出た段階で銀行に打診するのが理想です。ただし既存の取引銀行に「M&Aを検討している」と早めに伝えておくと、銀行側も担当者のアサインや事前スタディが進み、審査が速くなる効果があります。融資審査の目線で言うと、銀行への事前相談は「遅すぎる」ケースがほとんどです。

参考資料