はじめに:AI×電子申請で助成金がラクになる…はずだった
最近、キャリアアップ助成金の申請まわりで「就業規則をAIで作りました」「電子申請で全部オンラインで済みました」みたいな声をよく聞くようになりました。
うちで実際に取った時の話なんですけど、キャリアアップ助成金って就業規則の「正社員転換制度」の規定がないとそもそも土俵に上がれないんですよね。で、この就業規則づくりにChatGPTを使う人が急増してる。気持ちはわかります。就業規則のテンプレを一から書くのはしんどいし、AIに「正社員転換規定を含む就業規則を作って」と投げれば、それっぽいものが30分で出てくる。
でも、ここに落とし穴がある。今日はその話をします。
落とし穴1:AIが出す就業規則は「法改正に追いついていない」
公募要領を3回読んでみたら気づくことがあります。キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、令和7年度からキャリアアップ計画書の事前認定が不要になり「届出のみ」に簡素化されました。一方で、就業規則上の「正社員と非正規の明確な区分」はむしろ厳格化されています。
AIが生成する就業規則は、学習データの時点の法令に基づいています。つまり、2024年以降の改正内容——たとえば「賃金3%以上の引き上げ要件」の強化や、令和8年度の「非正規雇用労働者情報開示加算」の増額(5万円→20万円)——が反映されていない可能性が高い。
労働局の窓口で「AIで作った就業規則ですが…」と出して、「ここの正社員転換の条件、最新の要件を満たしてませんね」と差し戻されるケースが実際に出ています。
落とし穴2:「正社員転換制度」の規定が曖昧すぎる
キャリアアップ助成金の審査で就業規則がチェックされるポイントは明確で、以下の3つが必須です。
- 転換の対象者の要件(勤続年数、職種、評価基準など)
- 転換の手続き(面談・試験の有無、決裁フロー)
- 転換時期(年何回、いつ実施するか)
AIに「正社員転換制度を就業規則に追加して」と頼むと、「会社が認めた場合、正社員に転換することがある」みたいなふわっとした条文が出てくることが多い。これでは審査で「具体性が足りない」と指摘されます。
テンプレで時短するときも、ここだけは絶対に手抜きしたらあかんポイントです。転換対象者を「勤続6か月以上で、直近の評価がB以上の有期雇用労働者」のように、数字と基準で具体的に書く必要があります。
落とし穴3:電子申請と紙申請の「混在」で詰む
2023年から「雇用関係助成金ポータル」での電子申請が本格化しました。GビズIDプライムを取得すれば、キャリアアップ計画書の届出から支給申請まで全部オンラインで完結できます。
ただし、キャリアアップ計画書を紙で提出した場合、同じ取組の支給申請をポータルから電子で行うことはできません。紙で始めたら紙で最後まで。電子で始めたら電子で最後まで。この「混在NG」を知らずに途中から電子に切り替えようとして申請できなくなる人がけっこういます。
電子申請を使うなら、最初のキャリアアップ計画書の届出からGビズIDで提出してください。ちなみにGビズIDの取得にはgBizIDプライムが必要で、gBizIDエントリーでは助成金ポータルが使えません。申請から取得まで2〜3週間かかるので、早めに動きましょう。
じゃあAIはどう使うのが正解?
誤解しないでほしいのは、AIを使うこと自体が悪いわけではないということ。問題は「AIで作ったものをそのまま提出する」ことです。僕自身、朝カフェで公募要領を読み込みながら、Notionでテンプレを整備するときにAIを「たたき台作成」には活用しています。
おすすめの使い方はこうです。
- AIでたたき台を生成:「正社員転換制度を含む就業規則のひな形を作って」と指示
- 公募要領と突き合わせ:厚生労働省の最新パンフレット(令和8年度版)と条文を1つずつ照合
- 士業に最終チェックを依頼:法的な整合性は社労士に確認。ここは素人マニアの領分じゃない
- 電子申請で提出:GビズIDプライムで計画届から一気通貫
以前、noteで補助金の解説記事を出したら地元の社労士から「法的に誤りがある」とDMをもらったことがありました。それ以来、法解釈は士業に譲り、自分は「読者の動線設計」と「実例ストック」に集中するようにしています。結果的に、逆に士業から原稿チェックの依頼が来るようになって、お互いの強みで勝つ構造ができました。
2026年度の注目ポイント:情報開示加算が4倍に
令和8年度(2026年度)のキャリアアップ助成金で注目すべきは、非正規雇用労働者情報開示加算です。中小企業の場合、従来の5万円から20万円に増額される見込みで、正社員化コースの最大受給額が115万円を超える可能性があります。
この加算を受けるには、非正規雇用労働者のキャリアパスや処遇改善に関する情報を社内外に開示する必要があります。具体的には、就業規則やキャリアパス規定を社内掲示やイントラネットで公開し、さらにハローワークの求人票にも反映させます。
ここでもAIの出番があります。社内向けの説明資料やFAQの作成は、AIが得意な領域。ただし、公開する情報の正確性は人間が担保してください。
FAQ(よくある質問)
Q1. AIで作った就業規則でキャリアアップ助成金は申請できますか?
AI作成自体は違法ではありませんが、そのまま提出すると法改正への未対応や正社員転換制度の規定不足で不支給になるリスクがあります。必ず最新の公募要領と突き合わせ、社労士の最終チェックを受けてから提出しましょう。
Q2. 電子申請と紙申請はどちらがおすすめですか?
これから新たに申請するなら電子申請がおすすめです。ただし、最初のキャリアアップ計画届から電子で提出する必要があります。GビズIDプライムの取得に2〜3週間かかるので早めに準備を。
Q3. GビズIDの種類はどれを取ればいいですか?
雇用関係助成金ポータルを利用するには「gBizIDプライム」が必要です。gBizIDエントリーでは助成金ポータルにアクセスできないので注意してください。
Q4. 正社員化コースの支給額はいくらですか?
中小企業の場合、有期雇用→正規雇用で1人あたり最大80万円(加算込み)、無期雇用→正規雇用で最大40万円です。2026年度は情報開示加算の増額で、さらに20万円の上乗せが見込まれています。
Q5. 就業規則の正社員転換制度には何を書けばいいですか?
最低限、転換対象者の要件(勤続年数・評価基準等)、転換手続き(面談・試験の有無)、転換時期(年何回・いつ実施するか)の3点を具体的に記載してください。「会社が認めた場合」のような曖昧な記載では審査で不備と判断されます。
参考文献
- 厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html - 厚生労働省「雇用関係助成金の電子申請」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00060.html - GビズID公式サイト「利用できる行政サービス一覧」
https://gbiz-id.go.jp/top/service_list/service_list.html - RESUS社会保険労務士事務所「【2026年対応版】生成AIで就業規則を作成する方法と注意点」
https://resus.jp/topics/4916/

