「ハローワーク経由で採用したのに、トライアル雇用助成金が不支給になりました。どうしてですか?」
2026年に入ってから、このような相談が増えている。結論から言うと、トライアル雇用助成金は「ハローワークでの手続きの順序」と「雇用形態の書き方」の2点で設計を誤ると、採用後に気づいても取り返しのつかない状況になる制度だ。スタートアップでよくあるのが、採用を済ませてから助成金の存在に気づき、「後から手続きを整えれば大丈夫」という判断をしてしまうパターンだ。
私は年間100件超の助成金を処理する中で、トライアル雇用助成金については3つの構造的な不支給パターンを繰り返し目にしてきた。本記事では、スタートアップが陥りやすいこの3パターンと、正しい採用設計フローを解説する。
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)の概要
トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)は、職業経験の不足や長期離職などにより就職が困難な求職者を、無期雇用への転換を前提に原則3か月間の試行雇用(トライアル雇用)を行った事業主に支給される制度だ(令和8年度)。
- 支給額:対象労働者1人につき月額最大4万円(ひとり親家庭の親等は月額最大5万円)
- 支給期間:原則3か月(最大12万円、ひとり親の場合最大15万円)
- 支給月額の計算:実就労日数 ÷ 就労予定日数 × 月額上限(実就労ゼロの月のみ全額不支給)
- 対象者(求職者側):ハローワーク等に求職申込みをしており、6か月以上の離職者・若年者・母子家庭の親等、就職が困難な状況にある者
特定求職者雇用開発助成金(最大60万円)と比べると支給額は小さいが、「採用前に3か月の確認期間を設ける」という採用リスク低減の設計として価値がある。ただし、この制度には「採用前に手続きを整える」という大前提があり、スタートアップの「まず動く、整えるのは後」の文化と根本的に噛み合わない構造がある。
不支給パターン①:ハローワークに「通常求人」を出して採用した
最も多い不支給パターンがこれだ。
「ハローワークに求人を出した、紹介状も発行してもらった、採用も完了した。なのになぜ対象外?」——このような相談が後を絶たない。原因は、求人票の種別にある。
トライアル雇用助成金を使うには、事前に「トライアル雇用求人」として求人登録する必要がある。通常の正社員求人をハローワークに出していても、そこから採用した人はトライアル雇用助成金の対象にならない。ハローワークの「通常求人」と「トライアル雇用求人」は別の種別であり、採用後に種別を変更することはできない。
スタートアップが陥る典型的な誤解:
- 「ハローワーク経由で採用したからトライアル雇用助成金も使えるはず」→ 求人票の種別が異なる
- 「WantedlyとハローワークのW採用で、後からハローワーク紹介状を取得すれば申請できる」→ 先に民間チャネルで接触した場合は「雇用の予約」に該当し不可
- 「採用後にハローワークに相談すれば対応してもらえる」→ 求人登録の変更は採用前にしか対応できない
防止策:採用計画を固めた段階でハローワークにトライアル雇用求人として登録する。Wantedly等の民間チャネルと並行してトライアル雇用を使う場合は、求人票の種別を別々に管理し、候補者ごとに採用チャネルを確定させること。「どちらのチャネルで採用するか」を面接前に決めるのが鉄則だ。
不支給パターン②:実施計画書を雇入れから2週間を超えて提出した(後出し)
制度を先に整えてから——これが私の基本的な考え方だが、スタートアップでは逆の順序で動くことが常態化している。
トライアル雇用を開始したら、雇入れから2週間以内に「トライアル雇用実施計画書」をハローワークに提出する義務がある。この2週間を過ぎると、申請が一切受け付けられない。
スタートアップでよくあるのが、採用が決まった勢いでオンボーディングを進め、Slackにも追加し、クライアントMTGにも同席させてから「そういえばトライアル雇用助成金の手続きをしていなかった」と気づくパターンだ。2週間は想像以上に短い。内定通知を出した翌日から業務が始まれば、計画書提出の期限はあっという間に過ぎる。
私の朝のルーティンでも、7時にヨガを終えてSlackを開いたときに「採用が決まりました!」という報告を見て、即座に「計画書の提出を今週中に」と返信することがある。このリアクションが、不支給を防ぐうえで実は一番大切な作業だ。
防止策:採用内定を出した日のうちに、Slackの社労士チャンネルに通知する仕組みを構築する。「内定通知書を送る前に社労士へ確認」を採用フローに組み込めば、計画書の後出しはほぼゼロになる。採用即日に計画書の下書きを始め、翌営業日にはハローワークへ持参する段取りが理想だ。
不支給パターン③:労働条件通知書を「試用期間付き正社員」と記載した
これが最も見落とされやすいパターンだ。
トライアル雇用は、有期雇用契約(最長3か月)として行う制度だ。ところがスタートアップでは、クラウド労務ソフトのテンプレートが「期間の定めなし」のデフォルト設定になっていたり、採用担当者の認識不足から、労働条件通知書に「試用期間3か月の正社員(無期)」と記載してしまうことがある。
この場合、
- 労働契約上は「無期雇用(試用期間付き正社員)」として成立している
- トライアル雇用の「有期雇用→無期雇用への転換」という制度趣旨に合致しない
- ハローワークが書類確認した際に要件不備として不支給判断される
以前、シリーズBのSaaS企業の採用支援をした際、バックオフィス採用でハローワーク併用を提案し、特定求職者雇用開発助成金(60万円)を受給できた事例があった。その経験から、採用後にトライアル雇用助成金への切り替え相談が来るケースも増えたが、「すでに無期雇用で雇入れた」という状態からの申請は一切受け付けられない。雇用形態の選択は採用プロセスの最初に確定させておく必要がある。
加えて、SmartHRやfreee人事労務のデフォルトテンプレートが「期間の定めなし」になっていることで、設定を変更しないまま通知書を発行してしまうと、有期雇用の実態が証明できなくなる。これはクラウド労務ソフト起因の不支給構造として、複数のスタートアップで同じ問題を確認している。
防止策:トライアル雇用の場合は、労働条件通知書に「雇用期間:○年○月○日〜○年○月○日(トライアル雇用期間)、期間満了後に双方合意のうえ無期雇用に切替」と明記する。クラウド労務ソフトにトライアル雇用専用のテンプレートを作成し、通常採用と明確に分けて管理すること。
正しいトライアル雇用の申請フロー(逆算設計)
スタートアップが安全にトライアル雇用助成金を活用するには、採用計画の段階から逆算する必要がある。
- 採用計画の確定:バックオフィス・事務職等でトライアル雇用を活用する方針を決定
- ハローワークへのトライアル雇用求人登録:「トライアル雇用求人」として求人票を作成・登録(対象者の要件・雇用期間・転換後の条件を明記)
- ハローワークからの紹介・紹介状の発行:面接前に紹介状を受け取ることが必須
- 採用決定・雇入れ:有期雇用契約(3か月)として労働条件通知書を専用テンプレートで作成
- ★実施計画書の提出(雇入れから2週間以内):ここが最重要。採用翌日から動く
- トライアル雇用実施:3か月間の試行雇用(毎月の就労実績を記録)
- 支給申請:トライアル雇用終了の翌日から2か月以内にハローワークへ提出
このフローで重要なのは「②→③→④→⑤の順序を守ること」だ。採用後に求人票の種別を変更することはできない。①と②を採用開始の最低2〜3週間前に完了させておくことが、スタートアップが安全にこの制度を使うための最低条件だ。
特定求職者雇用開発助成金との使い分け基準
トライアル雇用助成金(最大12万円)と特定求職者雇用開発助成金(最大60万円)はどちらもハローワーク経由の採用が前提だが、設計思想が異なる。
| 比較項目 | トライアル雇用助成金(一般) | 特定求職者雇用開発助成金 |
|---|---|---|
| 支給額 | 月最大4万円×3か月=最大12万円 | 最大60万円(6か月・12か月分割) |
| 雇用形態 | 有期(3か月)→ 無期転換前提 | 最初から無期(正社員等) |
| 採用リスク | 低い(試行期間でミスマッチを確認) | やや高い(即正社員のため離職リスク) |
| 採用確度が高い場合 | △(支給額が少ない) | ◎(高額助成、長期定着を前提) |
| 採用確度が不明な場合 | ◎(試行雇用でリスク低減しながら助成金も取得) | △(離職リスクがある) |
結論から言うと、候補者の実力・適性が事前に見えている採用(リファレンスあり・スキルが明確)は特定求職者雇用開発助成金、バックオフィス系で即戦力かどうか判断しにくい採用はトライアル雇用助成金、という使い分けが合理的だ。
よくある質問(FAQ)
Q1. トライアル雇用期間中に本採用(正社員化)を早めたら助成金はどうなりますか?
A. トライアル雇用期間(最長3か月)を短縮して無期雇用に切り替えた場合、切り替えた月までは実就労日数で日割り計算した助成金が支給されます。3か月に満たない場合は支給額が減額されます。なお、期間を短縮する場合もハローワークへの報告が必要です。
Q2. Wantedlyで見つけた候補者にトライアル雇用助成金を使えますか?
A. 使えません。トライアル雇用助成金はハローワーク等からの紹介状が必須要件です。Wantedly等の民間チャネルで先に接触した候補者をハローワーク経由に切り替える行為は「雇用の予約」に該当し、不支給の原因になります。採用チャネルごとに候補者を管理し、面接前にチャネルを確定させることが必要です。
Q3. 対象者はどのような人ですか?誰でも申請できますか?
A. すべての求職者が対象ではありません。6か月以上の離職者・若年者(ニート等)・母子家庭の親等、就職が困難な状況にある求職者が対象です。スタートアップが採用する即戦力の中途経験者は要件を満たさないケースが多く、事前にハローワークで対象者かどうかを確認することが不可欠です。
Q4. 実施計画書は採用後でも提出できますか?
A. 雇入れから2週間以内であれば提出できます。ただし2週間を超えると一切受け付けられません。採用内定が決まった日のうちに手続きを開始することを強くお勧めします。
Q5. トライアル雇用した後、必ず正社員化しなければなりませんか?
A. 「無期雇用を前提とする」制度ですが、3か月のトライアル期間終了後に双方の合意で雇用を継続しないこともできます。その場合、すでに支給された助成金の返還義務はありません。ただし、制度の趣旨として「合わなければ終了できる」という認識を双方が持ったうえで採用することが前提となります。
まとめ
トライアル雇用助成金でスタートアップが不支給になる3パターンをまとめると:
- 通常求人で採用した:ハローワークに「トライアル雇用求人」として事前登録が必要。通常求人からの採用では対象外
- 実施計画書を2週間以内に提出しなかった:雇入れ日から2週間という期限は絶対条件。採用即日にSlackで社労士に通知する体制が必要
- 労働条件通知書を「試用期間付き正社員」と記載した:トライアル雇用は有期雇用契約。クラウド労務ソフトのテンプレートを専用設定に変えておくこと
制度を先に整えてから採用に動く——この逆算の発想だけで、上記3パターンは構造的に防止できる。トライアル雇用助成金は支給額こそ12万円と控えめだが、採用ミスマッチを減らしながら助成金も取れる「採用設計の一手」として、スタートアップのバックオフィス採用に十分活用できる制度だ。





