締切の10月30日まで、今日(10月17日)時点で残り約2週間です。事業計画書の仕上げ段階で、こんな会話が出ていませんか。
「賃上げ率、もう少し高く書いたほうが加点されるんじゃない?」
先に結論を書きます。賃上げの数字は、採択のために書くものではなく、5年後の自社が払える金額として書くものです。未達の場合、補助金の返還という形で請求が来る設計になっています。
この記事では、研究開発型の中小企業が陥りやすい「賃上げ未達による返還」の3パターンと、申請前に決めておくべき数字を整理します。
先に確認:この記事の数字の出どころ
私は公募要領を3回読んでから書くタイプですが、今回は注意点があります。新事業進出補助金の事務局サイトでは「新規の受付は『新事業進出・ものづくり商業サービス補助金』まで」と案内されており、制度名や統合の経緯が分かりにくくなっています。
私が確認できた返還ルールの詳細は、新事業進出補助金の公募要領を解説した民間サイトの情報です。統合後の第1回公募要領の数値と一致しているかは、この記事では確認できていません。したがって以下の数字は「考え方の例」として読み、必ずご自身で最新の公募要領の該当箇所を確認してください。
前提:賃上げ要件は「出して終わり」ではない
解説サイトによると、新事業進出補助金の要件は次のとおりです。
- 一人当たり給与支給総額の年平均成長率を3.5%以上(3〜5年の計画期間)
- 事業場内最低賃金を、毎年、地域別最低賃金より30円以上高い水準に保つ
- 賃上げ特例を選ぶ場合は、合計6.0%以上・最低賃金は合計50円以上
つまり採択された後も、計画期間の数年間は確認され続けます。研究開発型の会社は、開発期間中に売上が立たない期間があります。そこで無理な計画を書くと、後で苦しくなります。
返還額はこう計算される(解説サイトの例)
| 状況 | 返還の扱い |
|---|---|
| 賃上げ要件が最終年度に未達 | 交付額×(1−実績の年平均成長率÷目標値) |
| 目標値を従業員等に表明していない/実績がゼロ以下 | 全額返還 |
| 事業場内最低賃金の水準要件が未達 | 未達の年度ごとに「交付額÷計画期間の年数」を返還 |
| 賃上げ特例を選んで一方でも未達 | 上乗せ分は全額、基本要件部分も未達成率に応じて返還 |
例として、交付額1,000万円、目標3.5%、実績2.8%なら、1,000万円×(1−2.8÷3.5)=200万円の返還です。ただし返還額の上限は交付された補助金額です。
赤字や天災などで返還が免除される例外もありますが、解説サイトによれば、免除は賃上げ要件と最低賃金水準要件が対象で、賃上げ特例には免除規定がないとのことです。ここも公募要領で確認してください。
パターン1:特例を「加点とお得感」だけで選ぶ
補助上限が上がる特例は魅力的です。しかし特例は、基本要件より重い数字を約束する選択でもあります。特例で未達になると、上乗せ分が全額返還の対象になるため、損失が大きくなります。
対策:特例を選ぶ前に、5年分の人件費を試算してください。試算できない特例は、選ばないのが安全です。
パターン2:開発期間中の「売上ゼロ期間」を計画に入れていない
研究開発型は、試作・実証の期間は収益が出にくいものです。それなのに賃上げを初年度から均等に積み上げる計画を書くと、売上が立つ前に人件費だけが先行します。
うちで実際に取った時の話なんですけど、計画書を書くとき、賃上げは「開発完了後に上がる前提」と「開発中から上げる前提」の2本の資金繰り表を作りました。どちらで書くかで、約束する年平均成長率の根拠が変わります。
対策:年ごとの人件費・売上・営業利益を並べ、「どの年に賃上げ原資が生まれるか」を説明できる形にします。
パターン3:目標値の「従業員への表明」を後回しにする
解説サイトによると、目標値を従業員等に表明していなかった場合は全額返還とされています。ここは金額の大きい落とし穴です。
表明の方法や時期は、公募要領の記載に従う必要があります。申請書を出すだけで満足し、社内への周知が抜けてしまうケースが想定されます。
対策:申請と同時に、社内説明の日程と記録の残し方を決めます。表明の様式は、公募要領と事務局の資料で確認してください。
申請前に決める3つの数字
- 給与支給総額の年平均成長率:5年間の人件費計画から逆算した数字。
- 事業場内最低賃金:今の最も低い時給と、地域別最低賃金+30円の差。最低賃金は毎年上がります。
- 計画期間(3〜5年):長いほど達成の確認期間も長くなります。
テンプレで時短すると、この3つを入れる表を作っておくだけで、書類の整合性チェックが速くなります。私のNotionには、人件費シミュレーション用の表を入れています。
残り2週間のチェックリスト
- 賃上げ率は、5年分の試算の裏付けがある数字か
- 特例を選ぶ場合、未達時の返還額を試算したか
- 開発期間中の収益・人件費の資金繰りを示せるか
- 従業員等への表明の方法と記録を決めたか
- 金融機関確認書の依頼は済んだか(銀行の内部決裁に1〜2週間かかります)
よくある質問
Q1. 賃上げが未達になったら、必ず返還ですか?
解説サイトによれば、赤字や事業者の責めに帰さない理由(天災など)の場合は、賃上げ要件・最低賃金水準要件で返還が免除される例外があります。ただし条件が細かいため、公募要領で確認し、迷う場合は事務局に問い合わせてください。
Q2. 賃上げ率を低めに書けば安全ですか?
要件の下限を下回る計画は、そもそも要件を満たしません。下限は守り、そのうえで根拠の持てる数字を書くのが基本です。
Q3. 今回の数字は統合後の第1回公募でも同じですか?
確認できていません。この記事の数値は新事業進出補助金の解説に基づくものです。第1回公募要領で、賃上げ要件・返還の項を直接確認してください。
Q4. 返還のリスクを考えると、申請しないほうがよいですか?
そうとは限りません。5年分の人件費計画を立てて無理なく達成できる見込みがあるなら、問題はありません。判断が難しい場合は、税理士や認定支援機関など専門家に相談してください。個別の労務・法務判断は私の領分外です。






