先日、仙台市内のウェブ制作で独立したばかりの30代の方から相談があった。持続化補助金の創業枠で最大250万円が出ると聞いて準備を始めたものの、経費の内訳を詰めていくうちに「あれ、思ったほど補助が出ない」と気づいたらしい。朝の商店街散歩で顔なじみの印刷屋さんからも「最近IT系の若い人が創業枠で相談に来るけど、通らんのよ」と聞いていたから、ああやっぱりなと思った。
この手の相談、ここ2年で急に増えている。アプリ開発、動画制作、ECサイト構築——こうした業種の創業者は、事業の軸が「ウェブ」や「デジタル」にある。ところが持続化補助金の経費ルールは、こうした業種を想定しきれていない部分がある。結果として「想定していた補助額の半分以下しかもらえない」「そもそも申請できない」という事態になる。
2026年5月時点の公募要領(創業型・第3回)をベースに、IT・クリエイティブ系の創業者がハマりやすい3つの構造的なパターンを、行政書士として30年やってきた経験から整理してみる。
パターン1:経費の大半が「ウェブサイト関連費」に分類されて補助額が4分の1に縮む
持続化補助金の創業枠は補助上限250万円、補助率3分の2だ。だから「375万円の事業費なら250万円出る」と計算する創業者が多い。
が、落とし穴がある。
ウェブサイト関連費には、補助金交付決定額の4分の1が上限として設定されている。つまり250万円の交付決定を受けても、ウェブ関連に使えるのは最大62.5万円まで。ホームページ制作、ECサイト構築、ランディングページ作成——IT系の創業者にとってはこれが事業の「本体」なのに、経費区分上は脇役として扱われる。
まずは現場を見させてもらってから言いたいのだが、実際に相談に来るIT系創業者の経費計画を見ると、全体の7割から8割がウェブ関連費に該当するケースがほとんどだ。375万円のうち300万円がウェブ関連——この場合、補助が出るのは62.5万円。残りの75万円分(非ウェブ経費)に対して補助率3分の2を掛けた50万円を足しても、合計112.5万円にしかならない。当初250万円もらえると思っていたのに、実質は半分以下になる。
これは「IT系だから不利」という話ではなく、制度設計の前提が「販路開拓のために店舗改装やチラシを刷る小規模事業者」にあるから起きる構造的なズレだ。
パターン2:SNS広告やSEO対策費も「ウェブサイト関連費」に含まれると知らない
ウェブサイト関連費の範囲は、想像より広い。
ホームページやECサイトの制作費だけではなく、以下も「ウェブサイト関連費」に分類される。
- SNS広告の出稿費(Instagram広告、X広告など)
- リスティング広告(Google広告)の運用費
- バナー画像やLP(ランディングページ)の制作費
- SEO対策の外注費
- 動画広告の制作・配信費(ウェブ経由の場合)
IT・クリエイティブ系の創業者は、ウェブサイト本体の制作費を「ウェブサイト関連費」に計上し、広告費は「広報費」として別枠で申請しようとする。しかし公募要領を読むと、インターネットを活用した広告はウェブサイト関連費に分類される。「広報費」として認められるのは、チラシ・パンフレット・新聞広告・ダイレクトメールなど、紙やオフラインの媒体が中心だ。
商工会さんに聞いてみると、「ネットの広告費は広報費で出せますか」という問い合わせが月に何件も来るそうだ。答えは毎回同じ——「ウェブサイト関連費です」。
ここで困るのは、パターン1との合わせ技になること。ウェブサイト制作費40万円とSNS広告費30万円を合算すると70万円。これがすべてウェブ関連費に入るから、上限62.5万円を超える。超えた分は補助対象外。広告費を「広報費」で通せると思っていた経費計画は、ここで根本から崩れる。
パターン3:ピボットが前提の事業なのに「計画通り実行」が求められる
IT・クリエイティブ系の創業者がハマる3つ目の罠は、採択後の話だ。
スタートアップの世界では「ピボット」——つまり事業の方向転換——が当たり前に起きる。アプリを作り始めたら途中で仕様が変わった、ターゲット顧客が想定と違った、開発言語を変更した。こうした修正は日常だ。Xでも「ゲーム開発って途中で仕様も方向性も変わる前提のプロジェクトなので、補助金が想定する『計画通りに進めてください』という前提とかなり衝突する」という声があった。
持続化補助金では、採択後に事業内容や経費配分を変更する場合、Jグランツ(電子申請システム)から計画変更承認申請を出す必要がある。この申請が通らなければ、変更後の経費は補助対象にならない。さらに、申請時に計上していなかった新しい費目の追加は原則認められない。
たとえば「ウェブ制作会社」として採択されたあとに、事業をアプリ開発にピボットした場合。開発環境のライセンス費やクラウドサーバー費が新たに発生するが、当初計画に入っていなければ補助対象外になる可能性が高い。計画変更承認が下りるまでの期間も読めないから、開発スケジュールが止まる。
以前、見栄えだけ綺麗な事業計画で1000万円の採択を受けた個人飲食店をサポートしたことがある。PL(損益計算書)を見たら売上前提が商圏規模に対して過大で、半年でキャッシュが枯渇した。補助金は「採択がゴール」になった瞬間に事業が終わる。IT系の創業者も同じで、「採択されたから大丈夫」ではなく、ピボットが起きたときの経費の着地点まで見通しておかないと、採択後に詰む。
IT・クリエイティブ系の創業者が持続化補助金を使うための3つの段取り
ではどうするか。3つの段取りを書いておく。
段取り1:経費配分を「非ウェブ」中心に組み替える
ウェブ関連費の4分の1上限を逆手に取る。事業計画の経費配分を、機械装置等費(PC・タブレット・開発用機材)、広報費(紙のチラシ・展示会出展)、旅費(営業活動・取材)など、非ウェブの費目を中心に組み立て直す。ウェブ制作費は全体の20〜25%に抑えて、上限に引っかからない設計にする。
段取り2:商工会に相談する前に経費の「色分け表」を作る
想定している経費をすべて書き出して、横に「ウェブサイト関連費」「広報費」「機械装置等費」「委託・外注費」と公募要領の経費区分を並べる。どの経費がどの区分に入るか、自分で色分けしてから商工会に持っていく。商工会の担当者も「この経費はウェブですか?広報ですか?」を毎回判断するのは大変だから、事前に仕分けしてあると話が早い。
段取り3:「変わらない経費」と「変わる経費」を分けて申請する
ピボットに備えるには、申請時の経費を2層に分けて考える。PC購入や事務所の内装など「事業の方向が変わっても確実に使う経費」を第1層に、開発ツールのライセンスやSaaS費用など「仕様変更で不要になるかもしれない経費」を第2層にする。第1層を中心に申請すれば、ピボットが起きても計画変更のリスクが小さくなる。
信金担当者と先に握っておくのが筋だ、と常々言っている。補助金だけで資金計画を立てると、採択後のピボットで経費が補助対象外になったとき、持ち出しが一気に増える。創業融資と組み合わせて、補助金が減額されても回るキャッシュフローを設計しておくのが、結局いちばん堅い。
FAQ
持続化補助金(創業枠)のウェブサイト関連費の上限はいくらですか?
2026年5月時点の公募要領では、ウェブサイト関連費は補助金交付決定額の4分の1(25%)が上限です。創業枠の補助上限250万円の場合、ウェブ関連費に使えるのは最大62.5万円になります。
SNS広告やGoogle広告は「広報費」で申請できますか?
できません。インターネットを活用した広告(SNS広告、リスティング広告、バナー広告、SEO対策など)は「ウェブサイト関連費」に分類されます。「広報費」として認められるのは、チラシ・パンフレット・新聞広告・ダイレクトメールなど紙やオフラインの媒体が中心です。
ウェブサイト関連費だけで持続化補助金を申請できますか?
できません。ウェブサイト関連費のみでの単独申請は認められていません。必ず機械装置等費・広報費(紙媒体)・展示会出展費など、他の経費区分と組み合わせて申請する必要があります。
採択後に事業内容をピボット(方向転換)した場合、補助金はどうなりますか?
事業内容や経費配分を変更する場合は、Jグランツから計画変更承認申請を出して承認を受ける必要があります。承認なく変更した経費は補助対象外になります。また、申請時に計上していなかった新しい費目の追加は原則認められないため、大幅なピボットの場合は補助金の大部分が使えなくなるリスクがあります。
IT系の創業者は持続化補助金より別の補助金を使うべきですか?
事業内容によります。ウェブ関連費が経費の大半を占める場合、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)のほうがウェブ関連費の制約が緩いケースがあります。ただし従業員規模や申請要件が異なるので、商工会や行政書士に相談して自社に合う制度を選んでください。
参考文献
- 「小規模事業者持続化補助金<創業型>(第3回)」の公募要領を公開しました — 中小企業庁, 2026年1月
- 小規模事業者持続化補助金<創業型> — 持続化補助金事務局(商工会議所地区)
- 小規模事業者持続化補助金 創業型とは?最大250万円!一般型との違いも解説 — 補助金ポータル, 2026年
- Jグランツ ネットで簡単!補助金申請 — デジタル庁





