令和8年度のGo-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)の採択結果が2026年6月末に公表され、全国で122件が採択された。採択率は約43%——つまり、応募した研究開発型中小企業の過半数が不採択という結果になっている。

地場ベンチャー仲間の勉強会に、令和8年度で不採択だった経営者が3件相談に来た。全員が「来年度(令和9年度)にもう一度挑戦したい」と言っているのはいいんだけど、よく聞くと全員がほぼ同じパターンで再申請を考えていた。前年の申請書を使い回して、ちょっと文章を直して、また出す——これが一番ヤバいパターンだ。

公募要領を3回読んでみたら、Go-Tech事業の審査は技術面・事業化面・政策面の3軸で評価される構造になっている。この3軸と申請書を1対1で突き合わせる作業をせずに「文章のブラッシュアップ」をしても、採点の構造的な穴は埋まらない。今日は、令和9年度の公募(2027年2月ごろ開始予定)に向けて、今から準備すべき3つのポイントを整理する。

なぜ「翌年度に同じ結果を繰り返す」のか

Go-Tech事業の採択率は令和8年度で43%前後だった。不採択通知は6月末に届き、次の令和9年度公募は2027年2〜4月ごろになる見込みだ。今(9月)から数えると5か月以上ある。

しかし多くの不採択企業が「時間がある」と思ってしまって、振り返りを先延ばしにする。そのまま公募開始の2か月前くらいになってから「去年の書類を直して出そう」という話になる。結果、同じ審査軸のミスマッチで再び不採択というサイクルにはまる。

以下の3パターンのどれかに当てはまる場合、今すぐ手を打たないと令和9年度も同じ結果になる可能性が高い。

パターン1:文章修正だけで「審査項目との突き合わせ」をしない

よくある状況

「去年落ちたのは表現が弱かったからだ」と判断して、技術的到達目標や研究体制の文章を書き直す。しかし、公募要領の審査項目を確認せずに「自分が言いたいこと」を上手く言い換えているだけになっている。

なぜ落ちるのか

Go-Tech事業の審査は技術面・事業化面・政策面の3軸で評価される。

  • 技術面:研究開発目的の明確性、研究開発内容の新規性・優位性・実現可能性、研究開発体制の適切性
  • 事業化面:経済効果の妥当性、事業化に向けた課題解決方法の具体性
  • 政策面:中堅・中小企業等への波及効果、中小企業側の研究開発の主体性

「技術面の実現可能性が弱い」という評価を受けたなら、文章だけ変えても数値指標・測定方法・達成水準の根拠という3点セットが揃っていなければ改善にはならない。「業界初」「他社にない」という主観的な表現を言い換えても、定量的な比較根拠がなければ審査員の評価は変わらない。

また、事業化面の審査では「経済効果の妥当性」が問われる。市場規模の根拠がTAM(業界全体の市場規模)だけで終わっていた場合、SAM(取り込める市場)・SOM(現実的に獲得できる市場)まで一次データで絞り込む改善が必要だ。文章を磨いても数字の根拠が弱ければ結果は変わらない。

今すぐやること

公募要領の審査項目一覧と前年の申請書を1対1で突き合わせる。各審査項目に対して「どの段落が対応しているか」をチェックして、空欄になっている審査項目を特定する。これをやるだけで、文章の巧拙以前に「構造的な穴」が見えてくる。今月(9月)中に完了させたい。

パターン2:公設試連携を前年と同じ体制で再申請する

よくある状況

前年に協力してもらった公設試(産業技術センターや工業試験場など)に「また来年もよろしくお願いします」と連絡して、前年と同じ担当者・同じ試験メニューで申請書を作る。

なぜ落ちるのか

Go-Tech事業の公募は2月〜4月という年度末をまたぐタイミングで行われる。公設試の担当研究員は3〜4月に異動することが多い。前年の担当者が別の部署に移動していたり、退職・定年退職していたりするケースは珍しくない。

申請書に書いた担当者名と実際の担当者が違う状態で提出してしまうと、審査の「研究体制の適切性」で問題が出る。さらに問題なのが「名義貸し型」の再現だ。前年は採択目的で面談に応じてもらったが、次の担当者は自分の研究業務が忙しく、試験条件の設計や書類レビューに参加する時間がない——というケースがある。

公設試の保有設備が更新・廃棄されている可能性もある。前年の申請書に書いた設備型番が使えなくなっていることも起きる。連携機関の設備環境が変わると、前年計画したマイルストーンの根拠が成立しなくなる。

今すぐやること

不採択通知を受け取ってから2週間以内が理想だが、まだ間に合う。公設試の担当研究員との振り返りミーティングを設定する。担当者が異動・退職している場合は、新担当者と研究テーマのマッチングを確認し直す。令和9年度の公募に向けて、最低3回のミーティング(テーママッチング確認→試験条件設計→申請書共同レビュー)を年度内(2027年1月まで)に完了させるスケジュールを組む。

うちで実際に取った時の話なんですけど、Go-Tech事業で採択された直後に公設試の担当者が別の研究課題に移動してしまって、中間評価の準備で焦ったことがある。「採択後の連携維持」だけでも大変なのに、「次回申請に向けた連携再構築」はさらに別の話だ。不採択後の振り返りと同時に連携確認をやらないと、公募直前に「体制が成立しない」という事態になる。

パターン3:e-Rad・経営デザインシート・研究開発内容説明書を1年前の状態で使い回す

よくある状況

前年の申請に使ったe-RadのID情報・経営デザインシート(PDF)・研究開発内容説明書(15ページの提案書)を「ベース」として使い回す。文章を修正しながら更新するつもりが、実質的に1年前の情報のまま提出してしまう。

なぜ落ちるのか

e-Rad(府省共通研究開発管理システム)の研究実績が未更新

e-Radは研究者情報として論文・学会発表・特許・外部資金等の実績を登録する。Go-Tech事業の審査では研究者情報の充実度が「技術的能力」の評価に影響する。前年の申請から1年が経過して、論文発表・学会報告・特許出願・公設試との連携実績が増えているにも関わらず、e-Radに登録していない状態で再申請する企業が多い。審査員はe-Radの研究者情報を確認するため、1年間「研究実績が更新されていない研究者」として見られてしまう。

経営デザインシートのTRL段階が更新されていない

経営デザインシートの「これからの姿」は、前年申請時の研究計画をそのまま書き写している状態になりやすい。しかし不採択の1年間、何もしていたわけではないはずだ。試作・実験・データ取得など何らかの研究活動は進んでいる。TRLが4から5に上がっていたり、予備実験の結果が出ていたりするなら、「これまでの姿」の知的資産欄に追加し、「これからの姿」を更新した状態で提出すべきだ。「これまでの姿」欄に特許番号や公設試連携テーマを記載するだけでも、審査員に技術的な蓄積を伝えられる。

研究開発内容説明書の技術的到達目標が1年前の状態のまま

前年の申請時点では「今後実施予定」だった試験・実験が、この1年で実際に行われているはずだ。その結果(成功でも失敗でも)は、次の申請書の根拠として使える。「予備試験の結果、○○の条件下では△△の効果が確認されたため、本研究では□□に絞り込んで検証する」という記述は、前年の「○○を実施する予定」という記述より格段に実現可能性が高く見える。1年間の実績を反映しないのは、せっかくの根拠を捨てているのと同じだ。

今すぐやること

3つのドキュメントを別々に更新スケジュールを立てる。

  1. e-Rad:今月中(9月中)に研究者情報を確認し、直近1年の論文・学会発表・特許・公設試連携テーマを追加登録する(無料・即日)
  2. 経営デザインシート:10〜11月に「これまでの姿」を直近の試験実績・知財状況で更新し、「これからの姿」のTRL設定を見直す
  3. 研究開発内容説明書:11〜12月に試験データ・実験結果を「実績」として記述に追加し、月別マイルストーンを前年申請時からの進捗を踏まえて組み直す

令和9年度に向けた逆算スケジュール

時期やること
2026年9月(今)審査項目×申請書の突き合わせ完了 / 公設試担当者との振り返りミーティング設定 / e-Rad研究実績追加登録
2026年10〜11月公設試との試験条件設計協議(第2回ミーティング)/ 経営デザインシート改訂 / 市場規模SAM/SOMの一次データ収集
2026年12月〜2027年1月研究開発内容説明書の改訂(1年間の実績反映)/ 公設試との書類共同レビュー(第3回)/ J-PlatPat調査・学術文献調査の更新
2027年2月(公募開始予定)jGrantsからe-Radで申請 / 社内締切は公式締切の10日前に設定

テンプレで時短すると、1年前の情報のまま申請書の「見た目」だけ整ってしまうリスクがある。テンプレはあくまで構造の骨格として使い、審査項目との突き合わせ・一次データの差し替え・公設試の体制確認は必ず自社でやること。

よくある質問(FAQ)

Q1. 不採択通知に理由は書いてあるのか?
A. Go-Tech事業の不採択通知には採点結果が一部開示される。技術面・事業化面・政策面それぞれの評価コメントをもとに、3パターンのどれに当てはまるかを確認することが改善の第一歩だ。コメントが抽象的でも「どの審査軸で点数が低かったか」は判断できる。
Q2. 研究テーマを変えるべきか、続けるべきか?
A. TRL段階が前年より上がっていて実証データが積み上がっているならテーマを続けるのが合理的だ。ただしTRLが4〜5以下で「事業化の見通しが薄い」という評価を受けた場合は、新事業進出・ものづくり補助金(革新的新製品・サービス枠)やSBIR制度など他の制度を検討する段階かもしれない。公募要領を3回読んでみたら、制度ごとの想定TRL段階が見えてくる——自社のTRL段階と制度の設計が合っていない場合は制度選択から見直した方が採択確率は上がる。
Q3. 公設試の担当者が変わった場合、新しい連携先を探すべきか?
A. 新担当者との研究テーマの整合性を確認してから判断する。完全にテーマが合わない場合はGo-Tech事業のナビ(マッチングサービス)を使って別の公設試を探す選択肢もある。ただし新しい公設試との連携構築には最低3〜4か月かかるため、今から動かないと令和9年度公募に間に合わない。
Q4. Go-Tech不採択後にものづくり補助金(革新的新製品・サービス枠)への切り替えを検討しているが、同じ申請書を流用できるか?
A. 流用は危険だ。Go-Tech事業は「技術面重視・公設試連携必須・e-Rad申請」、ものづくり補助金は「事業化面重視・TAM/SAM/SOM必須・jGrants申請」と審査軸が根本的に異なる。Go-Tech用の申請書を流用すると、事業化面(販路・収益モデル・競合比較)が構造的に欠落したまま提出することになる。新事業進出・ものづくり補助金の第1回公募(締切10月30日)を検討するなら、今から設計し直す必要がある。
Q5. e-Radの研究実績更新に費用・時間はかかるか?
A. e-Rad自体の利用は無料だ。研究者情報の登録・更新も費用はかからない。所要時間は1〜2時間程度で、今すぐできる中で最もコスパが高い事前準備になる。論文・学会発表・特許出願は登録内容が多いほど技術的能力の評価が上がる。今月中に実施しておくのが鉄則だ。

参考情報