Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)の事業化計画を書くとき、ChatGPTにたたき台を出させる中小企業が増えています。
うちで実際に取った時の話なんですけど、Go-Tech事業の研究開発内容説明書は15ページ程度のボリュームがあるんですよね。技術面だけでなく事業化面の審査項目もある。で、AIにたたき台を出させてみたら、一見整った文章が出てきたんです。でも公募要領を3回読んでみたら、審査項目で求められる定量根拠がごっそり抜けていた。
この記事では、Go-Tech事業の事業化計画をAIで下書きした際に不採択になる3つの定量根拠欠落パターンを整理します。デジタル化・AI導入補助金の申請書とは審査基準がまったく異なるので、研究開発系補助金ならではの落とし穴を押さえてください。
前提:Go-Tech事業の事業化面の審査項目で問われていること
Go-Tech事業の公募要領では、審査が「技術面」「事業化面」「政策面」の3観点で行われます。事業化面では主に以下が評価されます。
- 経済効果:研究開発の成果が事業化された場合の付加価値額の見通し
- 市場ニーズ:川下製造業者等のニーズを的確に把握し、事業化の道筋が具体的か
- コスト面:事業化後のコスト優位性・原価構造の妥当性
また、Go-Tech事業には成長目標として付加価値額の年平均成長率+3.0%以上、1人当たり給与支給総額の年平均成長率+3.0%以上が求められます。この数値目標の積み上げ根拠が、AIに任せると崩れるんです。
パターン1:付加価値額の計画値が「きれいに3%ずつ上がる」丸い数字になる
ChatGPTに「付加価値額の5年計画を作って」と指示すると、基準年の数値に毎年3.0%を掛けた数字がきれいに並びます。1年目:1.03億円、2年目:1.061億円、3年目:1.093億円……という具合です。
審査員はこの「丸い数字」を一目で見抜きます。なぜなら、研究開発の成果が事業化されるまでには試作→サンプル出荷→量産立ち上げというフェーズがあり、各フェーズで売上の立ち上がりカーブが異なるからです。
改善のポイントは、決算書の粗利益を起点に、研究開発成果の売上貢献を個別積み上げで計算することです。朝のカフェで公募要領を読み直していたとき、審査項目の「経済効果」が求めているのは「率」ではなく「根拠ある積み上げ」だと気づきました。
付加価値額の積み上げ3ステップ
- 現状の付加価値額を決算書から算出:営業利益+人件費+減価償却費
- 研究開発成果の売上寄与額を試算:サンプル出荷先の見込み受注額×確度(例:A社見込み年2,000万円×確度60%=1,200万円)
- フェーズ別に売上立ち上がりを反映:1年目はサンプル出荷のみ、2年目から量産開始、3年目でフル稼働——という時系列で数字を変える
AIが出す「毎年3%」は最終チェック用の目安であって、計画値そのものではありません。
パターン2:市場規模が「TAM」だけで「SAM/SOM」の絞り込みがない
AIに「◯◯分野の市場規模を調べて」と聞くと、調査会社のレポートから引いたTAM(Total Addressable Market=市場全体の規模)が返ってきます。たとえば「国内◯◯市場は2025年に5,000億円規模」という数字です。
Go-Tech事業の審査では、この数字だけでは「で、あなたの会社はそのうちいくら取れるの?」という問いに答えられません。審査項目の「市場ニーズ」は川下製造業者等のニーズを的確に把握しているかを見ています。業界全体の数字ではなく、特定の顧客・特定の工程レベルまで具体化する必要があるのです。
TAM→SAM→SOMの3段階テンプレート
- TAM:調査レポートからの市場全体規模(AIが出せるのはここまで)
- SAM(Serviceable Addressable Market):自社技術が適用可能な領域に絞り込んだ規模。例:「5,000億円市場のうち、◯◯工程向けは約800億円」
- SOM(Serviceable Obtainable Market):自社が現実的に獲得可能な規模。例:「川下企業A社・B社・C社への直接営業で初年度2,000万円、5年後に2億円」
テンプレで時短すると、SAMの絞り込みに使う一次データ(川下企業へのヒアリング結果、展示会での引き合い件数、共同研究先からの技術照会実績)の収集を省略しがちです。でも一次データなしのSAM/SOMは審査員にとって「数字遊び」にしか見えません。
パターン3:原価構造が「業界平均比率」のままで試作段階の実測値がない
AIに原価構造を聞くと、「材料費40%、加工費30%、間接費30%」のような業界平均の比率が返ってきます。Go-Tech事業の審査ではこの数字では足りません。
事業化面の「コスト面」の審査では、研究開発によって実現するコスト優位性が問われています。つまり「現行品と比べてどれだけコストが下がるのか」「なぜ下がるのか」を技術的根拠とともに示す必要があります。
原価データの3点セット
- 仕入単価:試作で使用した材料の実際の購入単価(発注書・納品書ベース)
- 加工時間の実測値:試作工程で計測した実際の加工時間・検査時間
- 量産想定単価:試作実績から算出したロット増加時のコスト低減見込み
地場ベンチャー仲間の勉強会でもこの話をしたんですが、AIで下書きした原価構造を提出して「業界平均とほぼ同じなら優位性がないのでは」と審査員に指摘された事例が出ています。試作段階のデータがなくても、公設試の試験データや技術論文のベンチマーク値を引用して「現行技術比◯%のコスト低減が見込める」と示す方法もあります。
AI活用の正しいフロー:骨格作成→公募要領チェック→一次データ差し替え
AIが使えないわけではありません。正しい使い方は以下の4ステップです。
- 骨格作成:ChatGPTで事業化計画の構成と文章の骨格を作る
- 公募要領チェック:審査項目(事業化面)と骨格を突き合わせて、抜けている項目を洗い出す
- 一次データ差し替え:付加価値額は決算書、市場規模は川下ヒアリング、原価は試作データで上書きする
- 整合性チェック:研究開発内容説明書の技術面と事業化面の数字が矛盾していないか確認する
特に重要なのは3番目の一次データ差し替えです。Go-Tech事業は研究開発補助金なので、デジタル化・AI導入補助金の事業計画とは求められるデータの種類がまったく違います。付加価値額は「営業利益+人件費+減価償却費」で計算し(デジタル化・AI導入補助金の「粗利益÷従業員数」とは別の計算式)、市場規模はSAM/SOMまで絞り込み、原価は試作実績ベースで積み上げる——この3点を人間の手で埋めなければ、審査には通りません。
よくある質問(FAQ)
Q1. Go-Tech事業の付加価値額はものづくり補助金と同じ計算式ですか?
はい、同じです。Go-Tech事業もものづくり補助金も「営業利益+人件費+減価償却費」で付加価値額を計算します。デジタル化・AI導入補助金の労働生産性(粗利益÷従業員数×勤務時間)とは異なるので注意してください。
Q2. SAM/SOMの数値を出すための一次データがまだありません。どうすればよいですか?
公設試との共同研究で得た試験結果、川下企業との技術照会メールの実績、展示会での名刺交換・引き合い件数が使えます。数字が小さくても構いません。「TAM5,000億円→SOM2,000万円」でも、根拠があれば審査員の評価は上がります。
Q3. ChatGPTで事業化計画の骨格を作ること自体は問題ないですか?
骨格作成には有効です。ただし、AIの出力をそのまま提出すると定量根拠が欠落するため、必ず公募要領の審査項目と突き合わせて一次データに差し替えてください。
Q4. Go-Tech事業の成長目標「付加価値額年平均+3.0%」は複利ですか?
はい、年平均成長率なので複利計算です。5年間で約15.9%の付加価値額向上が必要です。研究開発フェーズで売上がゼロの期間を含めた計画設計が重要になります。
まとめ
Go-Tech事業の事業化計画でAIを活用すること自体は有効ですが、定量根拠(付加価値額の積み上げ・市場規模のSAM/SOM・原価構造の実測値)は自社の一次データでしか埋められません。公募要領の審査項目と突き合わせて、AIの出力を一次データで上書きするフローを確立してください。






