こんにちは、若林です。福岡で会社を経営しながら、補助金の公募要領を読むのが趣味みたいになっている30代です。自社で20件以上の補助金採択を経験してきました。

今回のテーマは「ECサイト構築に使える補助金」です。公募要領を3回読んでみたら、「デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)でECサイトを作ろう」と思っている中小企業が制度選びの段階で詰むパターンが3つに集約されることがわかりました。

結論を先に言うと、2024年以降、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)でECサイトの「新規制作」は原則として補助対象外です。2023年まではデジタル化基盤導入枠でEC制作が対象だったため、古い情報のまま申請しようとして壁にぶつかる企業がいまだに後を絶ちません。

パターン1:ECサイトの「新規制作費」をデジタル化・AI導入補助金で申請しようとして対象外と知る

これが一番多いパターンです。「IT導入補助金でECサイトが作れる」という2023年以前の情報がネット上にまだ大量に残っています。

デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠で補助対象になるのは、IT導入支援事業者が事務局に登録した「ITツール」(ソフトウェア・サービス等)です。ECサイトの受託制作(デザイン・コーディング・構築作業の外注費)は、登録ITツールには該当しません。

公募要領には以下の記載があります。

補助対象経費は、IT導入支援事業者が提供し、かつ事務局に登録されたITツールの導入費用に限る

つまり、「うちの会社のホームページ制作会社にECサイトを作ってもらう費用」は対象外です。SaaS型のECプラットフォーム(Shopify、BASE、カラーミーショップ等)が登録ITツールとして採用されていれば、その月額利用料は対象になる可能性がありますが、フルスクラッチのEC構築費はまず通りません。

なぜこの間違いが起きるのか

2023年まで存在した「デジタル化基盤導入枠」では、ECサイト制作費が補助対象に含まれていました。この枠が廃止された後も、Web上には「IT導入補助金でEC制作可能」という記事が大量に残っているためです。朝カフェで公募要領を読み直していて気づいたんですが、検索上位に出てくるEC構築×補助金の記事の半数以上は2023年以前の制度を前提に書かれています

パターン2:小規模事業者持続化補助金の「ウェブサイト関連費は補助額の1/4まで」制限を見落とす

デジタル化・AI導入補助金がダメなら持続化補助金で、と考える中小企業は多いです。確かに持続化補助金の補助対象経費にはウェブサイト関連費が含まれています。しかし、ここに大きな落とし穴があります。

ウェブサイト関連費は、補助金交付申請額の1/4(最大50万円)が上限です。

具体例で説明します。通常枠の補助上限は50万円(補助率2/3)です。つまり対象経費75万円のうちウェブサイト関連費に使えるのは最大18.75万円。ECサイトの構築費が100万円かかる場合、補助されるのは約18万円で、残りの82万円は全額自己負担です。

創業枠(補助上限200万円、補助率2/3)でも同じ制限が適用されます。対象経費300万円のうちウェブサイト関連費は75万円まで。ECサイト構築費だけで200万円かかるケースでは、補助されるのは75万円×2/3=50万円が上限で、残り150万円は自己負担です。

「EC+他の経費」で組み合わせる発想が必要

持続化補助金でECサイトの費用を少しでもカバーしたいなら、チラシ・パンフレット制作(広報費)、展示会出展(展示会等出展費)、店舗改装(機械装置等費)など他の経費と組み合わせて申請し、ウェブサイト関連費は全体の1/4以内に収める設計が必要です。

うちで実際に取った時の話なんですけど、ECサイト単体の申請ではなく「新商品の販路開拓」を事業テーマにして、展示会出展費+チラシ制作費+ECサイト構築費の3本立てで経費を組んだことがあります。ECは全体の25%に抑えて、メインは展示会。この組み方だと審査員にも「販路開拓の一環としてのEC」が伝わりやすくなります。

パターン3:EC「バックエンド業務ツール」と「ECサイト制作費」を混同して制度を選び間違える

ここが最も重要なポイントです。ECサイトの「制作費」は対象外でも、EC運営の「バックエンド業務ツール」はデジタル化・AI導入補助金の対象になる可能性があります。

例えば以下のようなツールは、登録ITツールとして採用されていれば補助対象です。

ツールの種類具体例対応プロセス
受発注管理ネクストエンジン、CROSS MALL等受発注・在庫・物流
顧客管理(CRM)Salesforce、HubSpot等顧客対応・販売支援
会計・決済freee、マネーフォワード等会計・財務・資産管理
在庫管理ロジクラ、zaico等受発注・在庫・物流

問題は、中小企業の多くが「ECサイトを作る=補助金で全部賄える」と考えてしまい、制作費とバックエンドツールの導入費を一緒くたに見積もることです。

正しい制度選びの考え方は以下のとおりです。

やりたいこと最適な補助金補助上限(目安)
ECサイトを新規制作したいものづくり補助金(省力化枠)最大750万円〜1,250万円
ECサイト+販路開拓を組み合わせたい小規模事業者持続化補助金最大50万円〜200万円(EC費は1/4)
EC運営のバックエンド業務を効率化したいデジタル化・AI導入補助金(通常枠)最大450万円
EC事業で新市場に進出したい新事業進出補助金最大9,000万円

以前、AI導入の補助金選びで「導入 vs 開発」の棲み分けを体系化したことがあるんですが、ECサイトの補助金選びも構造は同じです。「サイトを作る」のか「業務ツールを入れる」のかで、対象制度がまったく異なります。

制度選びを間違えないための3つのチェックリスト

  1. 「ECサイト制作費」と「EC業務ツール導入費」を分けて見積もる:制作費(デザイン・コーディング・構築)とツール導入費(SaaS月額・受発注管理・CRM等)を別の行で見積書を作る
  2. 制作費が中心なら持続化補助金かものづくり補助金を検討する:デジタル化・AI導入補助金は「登録ITツール」の導入が前提なので、受託制作費は対象外
  3. ツール導入費が中心ならデジタル化・AI導入補助金のITツール検索で登録状況を確認する:候補ツールが登録されていなければ、IT導入支援事業者を変更するか制度を変更する

ものづくり補助金でECサイトを申請する際の注意点

ECサイト構築費をものづくり補助金で申請する場合、「革新的サービス開発」として事業計画を書く必要があります。単なるネットショップの開設では革新性が認められません。

例えば以下のような切り口が必要です。

  • AIレコメンドエンジンを搭載したECサイトで、パーソナライズされた購買体験を提供
  • 3Dビューワーを組み込んだ商品ページで、実店舗に近い購買体験を実現
  • 受発注・在庫・配送を一気通貫で管理するEC基盤の構築

テンプレで時短すると、事業計画書の「技術面の革新性」パートで業界水準との比較を書き忘れがちです。公募要領の審査項目を必ず確認してください。

よくある質問(FAQ)

Q1. SaaS型のECプラットフォーム(Shopify等)の月額利用料は、デジタル化・AI導入補助金の対象になりますか?

A. IT導入支援事業者が事務局に登録しているツールであれば対象になる可能性があります。ただし、必ずITツール検索で登録状況を確認してください。同じツールでもIT導入支援事業者によって登録の有無が異なる場合があります。クラウド利用料の補助対象期間は最大2年分です。

Q2. ECサイトの制作費と受発注管理ツールの導入費を、別々の補助金で申請することはできますか?

A. はい、可能です。例えばECサイト制作費はものづくり補助金で、受発注管理ツールはデジタル化・AI導入補助金で申請するという組み合わせは制度上問題ありません。ただし、2つの補助金を同時に管理する事務負担と、それぞれの交付決定前着手禁止ルールに注意が必要です。

Q3. 2023年にデジタル化基盤導入枠でECサイトを構築した企業が、2026年に2回目の申請をする場合、どのプロセスが重複しますか?

A. デジタル化基盤導入枠は2024年に廃止されたため、2023年に交付決定を受けたプロセスは2026年のデジタル化・AI導入補助金の通常枠でも重複判定の対象になります。過去の交付決定通知書でプロセスを確認し、空きプロセスから逆算してツールを選定してください。

Q4. 自治体独自のEC支援補助金はありますか?

A. 多くの自治体が独自のDX・販路拡大補助金を設けており、ECサイト構築費が対象になるケースがあります。ただし、予算規模が小さく先着順の場合が多いため、自治体の広報誌やホームページを定期的にチェックするか、地元の商工会議所に相談するのが確実です。

まとめ

ECサイト構築の補助金選びで最も重要なのは、「サイトを作る費用」と「業務ツールを入れる費用」を分けて考えることです。デジタル化・AI導入補助金2026は「登録ITツールの導入」を補助する制度であって、ECサイトの受託制作費を補助する制度ではありません。

2023年以前の古い情報に引きずられて制度を選び間違えると、申請準備に数週間〜数ヶ月かけた挙げ句、対象外と知って振り出しに戻ることになります。まずは公募要領を読んで、自社がやりたいことが「制作」なのか「ツール導入」なのかを明確にするところから始めてください。

参考文献