「公募要領を3回読んでみたら、去年と計算式が全然違う…!」
今年(2026年)の朝カフェで公募要領を広げていて、思わずコーヒーを吹きそうになった。デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の「3年間事業計画」で求められる労働生産性の計算式が、2025年まで(旧IT導入補助金)と2026年で変わっていたのだ。
地場ベンチャー仲間の勉強会でも、この変更に気づかず旧式で事業計画を作ってしまったケースが7月だけで4件報告されてきた。しかも間違い方が3パターンに集約されている。第4次締切(2026年8月25日)を控えたこのタイミングで、完全に整理しておく。
デジタル化・AI導入補助金2026の「3年間事業計画」とは
通常枠に申請する事業者は、交付申請時点の翌事業年度から3年間の事業計画を策定し、次の要件を満たす必要がある。
- 1年後:労働生産性を3%以上向上させること
- 3年間の年平均成長率:3%以上(過去にIT導入補助金2023〜2025の通常枠等で交付決定を受けた事業者は4%以上)
「去年もこれ書いたな」と油断すると、計算式の変更に気づかずドツボにはまる。
パターン① 旧式(粗利益÷総労働時間)で計算しているパターン
これが一番多い。2025年まで(旧IT導入補助金)の労働生産性は「売上総利益(粗利益)÷ 総労働時間」で計算していた。
ところが、2026年のデジタル化・AI導入補助金では計算式が変わった。
【2026年の正しい計算式】
労働生産性 = (営業利益 + 人件費 + 減価償却費)÷ 年間の事業者当たり総労働時間
出典:デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠公募要領
「営業利益+人件費+減価償却費」は付加価値額(簡易計算式)であり、ものづくり補助金でも使われているものと同じ考え方だ。粗利益(売上総利益)とは根本的に異なる概念である。
| 制度 | 分子(生産の成果) | 分母 |
|---|---|---|
| 旧IT導入補助金(〜2025年) | 売上総利益(粗利益) = 売上高 - 売上原価 |
総労働時間 |
| デジタル化・AI導入補助金2026 | 営業利益+人件費+減価償却費 = 付加価値額(簡易計算) |
総労働時間 |
| ものづくり補助金 | 営業利益+人件費+減価償却費 | 従業員数×労働時間 |
材料費・外注費が多い製造業や建設業では、粗利益と付加価値額の差が大きくなることがある。旧式で計算すると現状の数値と目標値がずれてしまい、3年間の計画整合性が崩れる。
うちで実際に取った時の話なんですけど、自社ではものづくり補助金でずっと付加価値額ベースで管理していたため今回は比較的スムーズだった。一方で、IT導入補助金を使い続けてきた仲間は「計算式が変わってる!」と第一声で焦っていた。過去のテンプレートをそのまま流用したのが原因だ。
対策:直近決算期の損益計算書から「営業利益・人件費(役員報酬含む)・減価償却費」の3項目を拾い出し、現状の付加価値額を確定させてから計画値を積み上げる。ChatGPTでたたき台を出すと旧式の計算式が出てくることがあるので、分子の定義だけは公募要領から直接確認すること。
パターン② 「年平均成長率3%」を「3年で合計3%」と誤解するパターン
「年平均3%成長でいいなら、3年間で合計3%上げればいい」——この理解が間違いだ。
「年平均成長率3%」は複利計算であり、各年ごとに前年比3%以上の伸びが必要になる。
【複利計算の正しいイメージ(基準値100の場合)】
- 1年後(Year 1):103以上(100 × 1.03)
- 2年後(Year 2):106.09以上(103 × 1.03)
- 3年後(Year 3):109.27以上(106.09 × 1.03)
✗ 間違い例:「100 → 101 → 102 → 103(3年で合計3%増)」
✗ 間違い例:「毎年+15万円(絶対額固定)で成長率3%は達成できていない」
具体例で整理する。現状の労働生産性が500万円/年だとして、毎年+15万円(=基準値の3%)を均等に積み上げる計画を作ったとする。
- 1年目:500 → 515万円(+3.0% ✓)
- 2年目:515 → 530万円(+2.91%…要件3%に届かない)
- 3年目:530 → 545万円(+2.83%…さらに下がる)
絶対額を均等に増やすと、2年目以降は成長率が徐々に低下して要件を下回ってしまう。
対策:Excelで「前年値×1.03」を3行分作るだけで正しい目標値が計算できる。公募要領を3回読んでみたら「年平均成長率」と「累計成長率」が別物であることが明記されているので、数式の意味を確認したうえで計画書に落とし込むこと。
パターン③ 過去の受給歴があるのに「3%」で申請してしまうパターン
2026年の公募要領には、重要な1文が潜んでいる。
「過去にIT導入補助金2023〜2025の通常枠等で交付決定を受けた事業者については、1年後に4%以上、年平均成長率も4%以上の向上が要件となります」
IT導入補助金は2022〜2025年にかけて多くの中小企業が活用してきた。2026年に再申請する事業者には、この「4%基準」が自動的に適用される。
問題になるのは、「前回の申請はIT導入支援事業者に任せきりだったため、交付決定を受けたかどうか自分で把握していない」というケースだ。支援事業者側の記録では交付決定済みでも、事業者本人がそれを認識していないと3%で計画を作ってしまう。
勉強会での実例:ある小売業の方が「初めて申請する」と3%で計画書を持ってきた。確認したところ2024年にPOSレジ更新でIT導入補助金を受給済みだった。この場合、2026年申請では4%が要件になる。3%で出しても審査の段階でアウトになる。
⚠️ 4%基準の該当確認手順
- IT導入補助金の事務局ポータルサイトにGビズIDでログイン
- 「申請状況確認」から2022〜2025年の交付決定履歴を確認
- 「IT導入補助金2023〜2025 通常枠等」での交付決定があれば4%基準が適用
対策:計画書を書き始める前に、必ずポータルサイトで過去の交付決定履歴を確認する。3%の計画で作り込んでから4%基準だと判明すると、目標値の組み替えだけでなくITツール導入後の効果試算も全て見直しになる。
3年間事業計画を組み立てる正しいフロー
- 直近決算書を引っ張り出す:損益計算書から「営業利益・人件費(役員報酬含む)・減価償却費」の3項目と年間総労働時間を確認
- 現状の労働生産性を計算する:(営業利益+人件費+減価償却費)÷ 年間総労働時間
- 過去の受給歴を確認する:2022〜2025年の交付決定履歴があれば4%、なければ3%
- 目標値をExcelで複利計算する:現状値×1.03(または1.04)を3年分積み上げる
- ツール導入効果と連動させる:「〇〇業務の自動化で月〇時間削減→総労働時間が〇%減→生産性が〇%向上」というロジックを計算式で裏付ける
テンプレで時短するなら、この5ステップをNotionに入れておくのが鉄板だ。ステップ1〜3を先に固めてから申請書の文章を書き始めると、数値と文章の乖離が防げる。
申請前チェックリスト(5項目)
| 確認項目 | 確認 |
|---|---|
| 計算式の分子が「営業利益+人件費+減価償却費」になっているか(粗利益・売上総利益になっていないか) | ☐ |
| 目標値を複利計算で算出しているか(前年比×1.03または1.04を3段階) | ☐ |
| IT導入補助金2022〜2025の交付決定履歴をポータルサイトで確認したか | ☐ |
| 過去受給歴がある場合、4%基準で計画を立て直したか | ☐ |
| 目標値の根拠(ツール導入による業務時間削減のロジック)が計算式と整合しているか | ☐ |
よくある質問(FAQ)
Q1. 人件費には役員報酬も含まれますか?
含まれます。役員報酬・従業員給与・賞与・法定福利費が対象です。退職金は一般的に除きます。損益計算書の「給与・役員報酬・法定福利費」の合計を使ってください。
Q2. 設立後1〜2年で決算期が1回しかない場合、基準値はどう設定しますか?
直近の決算期の数値を使います。決算期間が12か月未満の場合は年換算(実績÷実際の月数×12)が必要です。創業直後で数値が小さくても、そのまま基準値として使用できます。
Q3. 「総労働時間」に個人事業主(経営者)自身の労働時間は含めますか?
含めます。個人事業主の場合も自身の年間労働時間を加算してください。月実働時間×12か月の計算が一般的です。過大に設定すると1人あたりの生産性が低くなるので、実態に即した数字にしてください。
Q4. 3年後の目標が未達の場合、補助金の返還が発生しますか?
目標未達だからといって即座に返還にはなりません。ただし、付加価値額の年平均増加率が1.5%に達しない場合は状況確認が入る可能性があります。天災等やむを得ない事情がある場合は返還免除の規定があります。
Q5. インボイス枠や電子取引類型でも3年間事業計画は必要ですか?
インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)では通常枠とは異なる要件が設定されているため、該当の枠の公募要領で確認してください。本記事の計算式・成長率要件は通常枠が対象です。






